スピッツ
2002-09-11


【収録曲】
全曲作詞作曲 草野正宗
全曲編曲       スピッツ&亀田誠治
3.編曲 スピッツ、クジヒロコ&亀田誠治
10.編曲 スピッツ&石田小吉
プロデュース スピッツ&亀田誠治 
10.プロデュース スピッツ&石田小吉

1.夜を駆ける ★★★★★
2.水色の街 ★★★★☆
3.さわって・変わって ★★★★★
4.ミカンズのテーマ ★★★★☆
5.ババロア ★★★★☆
6.ローテク・ロマンティカ ★★★★☆
7.ハネモノ ★★★☆☆
8.海を見に行こう ★★★☆☆
9.エスカルゴ ★★★★★
10.遥か album mix ★★★★☆
11.ガーベラ ★★★★☆
12.旅の途中 ★★★★★
13.けもの道 ★★★★★

2002年9月11日発売
2008年12月17日発売(SHM-CD化)
ユニバーサルミュージック
最高位1位 売上43.0万枚

スピッツの10thアルバム。先行シングル「遥か」「さわって・変わって」「ハネモノ」「水色の街」を収録。前作「ハヤブサ」からは約2年2ヶ月振りのリリースとなった。初回盤は歌詞カードの素材が違う。ザラザラした感じの手触りのものだと思われる。初回盤の中でも3333枚限定(ランダム)でミ賞・カ賞・ヅ賞・キ賞のどれかが封入されていたというが、どのようなものが入っていたかは不明。

今作からプロデューサーに亀田誠治が参加するようになった。現在までアルバムではプロデューサーとして参加している。当時のスピッツは歌録りの段階まで歌詞を完成させていないことが多かったものの、亀田の意見を聞き、歌詞を完成させてからレコーディングをするようにしたという。

独特なタイトルが印象的だが、レコーディングをしたスタジオの一つである「CRESCENT STUDIO」が由来だという。クレセントは英語で三日月を意味する。しかし、「三日月」だけだとインパクトが足りなかったため、「ロック」を付け足したようだ。


「夜を駆ける」は今作のオープニング曲。アニメ『ハチミツとクローバー』の挿入歌に起用された。オープニングにしては異質な印象を受けるほどに幻想的な雰囲気を持った曲。イントロから終始流れているキーボードの音色は聴き手を一瞬で今作、そしてこの曲の世界に引き込んでしまう。落ち着いたメロディーと疾走感溢れるバンドサウンドの絡みはこの曲の聴きどころ。特にドラムは圧巻。この曲の疾走感を限りなく演出するような素晴らしい演奏である。演奏の上手い下手がよく分からない管理人でも凄さが分かるほど。歌詞は真夜中の市街地を舞台にしたもの。どこか切迫感を感じさせる詞世界となっている。深夜のドライブで聴いたらテンションが上がること請け合いの曲。 メロディー、アレンジ、歌詞とどれを取っても圧倒的な完成度を誇り、スピッツの最高傑作としてこの曲の名を挙げるファンも多いというのも頷ける名曲。
ちなみに、スピッツのアルバムの一曲目はコンパクトなものが多いが、この曲が最長。今作全体を通しても最も演奏時間が長い。


「水色の街」は先行シングル曲。「ハネモノ」とは同日にリリースされた。後追いで聴くととてもシングル曲とは思えないような、幻想的で美しい雰囲気を持った曲。管理人はこの曲を一回聴いただけではパッとしない印象だったのだが、何回か聴くと不思議と癖になった。初めて聴いた時は不気味な曲だと感じたことを覚えている。繊細なメロディーや凝ったサウンドが展開されており、そちらに耳を傾けるとさらにこの曲に魅かれると思う。歌詞は川崎の街並みを舞台にしているとされる。一切の無駄を省いた歌詞は映画のワンシーンのよう。 サビが「ラララ…」というスキャットで構成されている。管理人は長らく「会いたくて 今すぐ」の部分がサビだと思い込んでいた。曲全体から漂う気だるい雰囲気がたまらない。そのせいか、雨の日や夏の蒸し暑い夜になると聴きたくなる。


「さわって・変わって」は先行シングル曲。スピッツと亀田誠治との共同プロデュースがされた最初のシングル曲。ノリの良いポップロックナンバー。ライブで演奏されたらかなり盛り上がりそうな感じ。バンドサウンドだけでなくキーボードも多用されており、サウンドはかなり賑やか。タイトルのフレーズを思い切り張り上げて歌うサビはキャッチーそのもの。サビで「baby」とコーラスが入っているのだが、これは女性の声を意識した草野マサムネの声。その美しい高音には圧倒されるばかり。
歌詞は難解でよく分からない。歌いだしの「天神駅」は福岡市内にある駅。草野マサムネの贔屓球団である福岡ソフトバンクホークスの本拠地のヤフオクドームからはそこそこ近いようだ。1番の「ぬるい海に溶ける月 からまるタコの足」という歌詞はどことなく意味深である。歌詞全体としては野球を想起させるフレーズとエロい感じのフレーズとが入り混じっている。よく意味が分からないのに、口ずさんでみると異様に気持ちが良い。これぞスピッツの歌詞!と言いたくなる。格好良さと意味不明な要素を併せ持ったこの曲はスピッツの楽曲の王道だと思う。


「ミカンズのテーマ」はノリの良いポップロックナンバー。どことなく昭和歌謡のように聴こえる部分がある。かなり骨太で重厚なバンドサウンドが主体となっており、曲調に反してサウンドは力強い。とはいえサビはとてもキャッチー。間奏では異国情緒漂うギターの音色やハモりを楽しめる。この曲の聴きどころの一つとなっているので聴き流すのは損。独特なタイトルが印象的なのだが、これは「もしも新しくバンド名をつけるならどうする?」という考えのもとで架空のバンド「ミカンズ」を設定したという。歌詞は冴えない男性が主人公として描かれている。それでも「逃げ出す術ばっか考えた」自分を否定し、前を向いている。ラストの「実は恋も捨てず 虹の橋を渡ろう」という歌詞が好き。「実は」という言葉のチョイスには驚かされた。 ネガティブになる気持ちも受け止めて聴き手を応援する感じはスピッツならでは。


「ババロア」はスピッツとしては初のダンスナンバー。ドラムほぼ全編打ち込みで構成されているが、一部で崎山の生ドラムも入っている。身体の奥まで響いてくるような打ち込みドラムの音が印象的。重厚な音色のベースも前面に出ており、それもこの曲の格好良さを引き立てている。心地良いリズムは聴いていると思わず身体が動いてしまうことだろう。サビはかなりキャッチーな仕上がりとなっている。歌詞については難解でよく分からない。スピッツの曲の歌詞の大多数は意味不明なものなのだが、この曲は特に難解だと思う。 「ババロア」のフレーズを使いたかっただけなのでは?と勘繰りたくなる。そのような詞世界の中でもサビの「驚いて欲しいだけの見えすいた空振り ナイーブで雑なドラマ」というフレーズが好き。思春期(青春時代)特有のモヤモヤした感情が絶妙に表現されていると思う。 スピッツとしてはかなり異色なサウンドの曲ではあるが、違和感無く聴ける。


「ローテク・ロマンティカ」は爽快なポップロックナンバー。今作の収録曲の中で最後に作られたという。アルバム全体を引き締めるような役割を考えて作られたようだ。タイトルの意味はわからないが、「ローテク」はハイテクの反対語だと解釈している。ストレートなロックサウンドが展開されている。聴いているとドラムがかなり複雑な演奏がされている印象。それでも少しも乱れない正確無比な演奏には脱帽するばかり。ところどころで入ってくるシンセの音がやたら耳に残る。ゲームのポケモンで、対戦中のポケモンの体力ゲージが赤になった時の音に似ていると思う。歌詞は下心を持った男の心を上手く皮肉ったようなもの。「本当は犬なのにサムライのつもり 地平を彩るのはラブホのきらめき」という歌詞がインパクト抜群。この歌詞のせいか、妖しげに輝く夜の街をイメージしてしまう。 曲全体から溢れる捻くれた雰囲気が好き。


「ハネモノ」は先行シングル曲。「水色の街」とは同日にリリースされた。カルピスのCMソングに起用された。当初は歌詞の無い、ハミングだけの弾き語りバージョンがオンエアされていたようだ。タイトルは草野による造語。「羽のような生き物」という意味があるようだ。パチンコの開閉するパーツのことではないとのこと。打ち込みサウンドが前面に出ているためか、サウンドはかなり複雑に作り込まれている印象がある。その中でもバンドサウンドは確かな存在感を放っている。凝りに凝った演奏を聴かせてくれるドラムやベースは特に凄い。歌詞は生まれ変わりを描いたものだと解釈している。「さよなら幻 踊り出す指先 宿題残したまま」という歌い出しのフレーズが好き。何故か夏休みの終わり際に、焦って宿題を消化している光景が浮かんでくる。曲としてはC/W曲の名曲というようなイメージで、あまりシングル向きの曲ではなかったと思う。


「海を見に行こう」はここまでの流れを落ち着けるようなアコースティックな曲。JR東日本のキャンペーンソングに起用された。丁度3分程度の短めな曲。アコギが前面に出た、爽やかで清涼感のあるサウンドが展開されている。間奏ではチェンバロやフルートが使われており、意外にも音の数は多め。歌詞はタイトル通り、恋人と海を見に行こうとする男性を描いたもの。鉄道会社とのタイアップがされた曲なのに、「バス」で行こうとしている。このような一筋縄ではいかない感じはスピッツらしさがある。聴いているこちらまで海に向かっているかのような気分になる。車窓から外の景色を眺めている感じ。旅気分をこれ以上無いほど演出してくれる曲だと思う。


「エスカルゴ」は勢いに溢れたロックナンバー。激しいドラムの連打から始まるが、その時点でテンションが上がることだろう。その後に入ってくるヘビーなギターリフにも引き込まれる。サウンド面では前作「ハヤブサ」の流れを継いでいるような印象がある。そのような激しいバンドサウンドで構成されているが、メロディーはかなりポップ。サビのメロディーも好きなのだが、それ以上にサビ前のメロディーがたまらない。歌詞の意味はよくわからない。引きこもっていた人が外に出ることを決意する…というような歌詞だと解釈している。自分の中に閉じこもってしまう人をカタツムリに例えているのではなかろうか。 ポップなメロディーとロックサウンドとのバランスが上手く取れており、スピッツ流のロックの到達点という印象がある。今作のアルバム曲だと「夜を駆ける」と並んで管理人の大好きな曲である。シングルにしていても何ら違和感の無い曲だと思う。


「遥か」は先行シングル曲。TBS系ドラマ『Love Story』の主題歌に起用された。今作収録にあたってリミックスされている。イントロのギターが追加されていたり、間奏のオルガンの音色が変わっていたりと地味ながら変更点が多い。今作の中では唯一となる、石田小吉との共同プロデュースによる曲。どこか切ないメロディーが展開されたバラードナンバー。世間が思うスピッツの楽曲のイメージに沿ったような曲になっている。しかし、今までのバラードと比べるとバンドサウンドの主張は少し強め。間奏のオルガンソロも曲を鮮やかに彩っている。歌詞はどことなく死をイメージさせる感じ。「旅立つ」「飛べそうな気がした」「夢から醒めない翼」「遠い 遠い 遥かな場所」…自殺だと解釈するのは安直だろうか。曲としては、今作の中だと少し浮いてしまっている印象がある。初出が一番古い曲だからかもしれない。


「ガーベラ」は先行シングル「さわって・変わって」のC/W曲。メンバー曰く、初めて亀田誠治とセッションした曲のようだ。しっとりとした曲調で聴かせる。聴いているだけで胸がキュッとなるような切ないメロディーがたまらない。ギターのアルペジオの音色はどこか幻想的な雰囲気を放っている。サビの「ハロー ハロー ハロー」と繰り返す部分はかなり耳に残る。歌詞の意味はよく分からないが、「闇の中 手が触れた」「ありのまま 受けとめる 今 君のすべて」「よろしくね」といったフレーズから、管理人は新しい命の誕生を描いたものだと解釈している。この曲の魅力は繊細で美しいメロディー。それだけでもこの曲に引き込まれると思う。 一曲単位で聴いてもいいが、今作の流れで聴くとさらに良い曲だと感じられる。


「旅の途中」は爽やかなポップナンバー。スピッツ側としては、この曲をアルバムの流れを締めるような役割を持った曲だと捉えているようだ。タイトルには、スピッツというバンドそのものもまだ「旅の途中」であるという意味が込められているという。透き通るような美しさを持ったギターサウンドが前面に出ている。聴き手に寄り添うような優しいメロディーは聴いていてとても心地良い。歌詞はタイトル通り、旅をしている時の光景を切り取ったようなものとなっている。これまでの道のりを振り返っているような感じ。この曲の主人公は「君」なのが印象的。「僕」は「君」を見守っているということなのだろうか?アルバムの流れで聴くと「ガーベラ」からぐっと明るくなるので、救われたような感覚になれる。


「けもの道」は今作のラストを飾る曲。イオン・エフティ資生堂「happy face」のCMソングに起用された。ラストを飾る曲なのだが、アルバムとしては「旅の途中」で締められたという印象がある。そのためか、この曲はストーリーの番外編というようなイメージ。勢いに溢れたバンドサウンドが展開されている。イントロのベースが格好良いが、どうやらLed Zeppelinの楽曲のオマージュのようだ。歌詞の内容はストレートな応援歌。「あきらめないでそれは未来へ かすかに続くけもの道」というサビの歌詞は聴き手の背中を力強く押してくれるかのよう。歌詞全体としては、 他の人を応援しているというよりは自分自身を励ましているような感じがある。タイトルには旅はまだ続いていくというような意味合いがあるのだろうか。バンドサウンドや歌詞を含めて力強さに満ちており、ライブでの定番曲というのも頷ける。この曲を聴き終えたら、またもう一周聴きたくなることだろう。


そこそこ売れた作品なので中古屋ではよく見かける。亀田誠治がプロデューサーとして制作に関わったわけだが、現在に至るまでのスピッツのサウンドが確立された作品であると言える。シングル曲だけでなく、アルバム曲を含めても全体的に楽曲のレベルが高い。ロック色の強さとポップ性のバランスが良いのも大きな魅力である。曲順もこれ以外は無いだろうと思える程良い。
一曲一曲がそれぞれにキャラクターを持っている印象があるため、良い意味でとっ散らかったアルバムだと言える。その点を考えると、散らかった部屋にいる女性というジャケ写のデザインの良さも光る。
ベスト盤止まりという状態のリスナーでも良いと感じられるような作品だと思う。管理人の中ではスピッツのオリジナルアルバムの中でも屈指の名盤という位置にある。

★★★★★