SING LIKE TALKING
1992-02-26


SING LIKE TALKING
2015-02-11
(リマスター盤)




【収録曲】
全曲作詞 藤田千章
全曲作曲 佐藤竹善
4.作曲 佐藤竹善
7.作曲 西村智彦
11.作曲 藤田千章
全曲編曲 SING LIKE TALKING 
13.ストリングス編曲 Lili Haydn WITH Martin Tillman
プロデュース Rod Antoon

1.飛べない翼 ★★★★★
2.Hold On ★★★★☆
3.遥かな航海へ ★★★★☆
4.Pray 省略
5.With You ★★★★★ 
6.Rise ★★★★★
7.Sunday Afternoon 省略
8.Slow Love Down ★★★★★
9.感じるまま~Humanity~ ★★★★☆
10.追憶~窓辺の風景~ ★★★★★
11.I'm In Love 省略
12.It's City Life ★★★★☆
13.きっと 何時の日か ★★★★☆

1992年2月26日発売
2015年2月11日発売(リマスター再発盤Blu-Spec CD2)
ファンハウス
Ariola Japan(2015年盤)
最高位3位 売上約14.3万枚

SING LIKE TALKINGの5thアルバム。先行シングル「With You」「Hold On」を収録。今作発売後に「Rise」がシングルカットされたほか「Slow Love Down」が「Rise」のC/W曲として、「飛べない翼」が「My Desire〜冬を越えて〜」のC/W曲としてシングルカットされた。前作「0 [lΛV](ラブ)」からは10ヶ月振りのリリースとなった。

今作がSLTにとって初のアルバムトップ10獲得作品である。内容も充実し、メインのAORのみならず、ポップス、ファンクの要素を持った楽曲も収録されており、バラエティ豊かな一作となっている。SLTの出世作と言える。レコーディングはロサンゼルスで行われており、ブックレットにはその様子が垣間見える写真がある。プロデュースは前作に引き続き、ロッド・アントゥーンが担当した。

タイトルの「Humanity」というのは「人間性」「人間らしさ」等を意味する言葉であるが、「慈愛」という意味も込められている。今作のタイトルには「他者に施す」という意味合いも含められているようだ。タイトルは「一人一人の人間自身がしっかりしないといけない」という気持ちを表現したという。 楽曲のコンセプトは佐藤竹善曰く「よりポップに、よりマニアックに」だったようだ。


「飛べない翼」は今作発売後に「My Desire〜冬を越えて〜」のC/W曲としてシングルカットされた曲。アルバムのオープニングを飾る重厚感溢れるバラードナンバー。ゆったりとした曲調ではあるがロック色の強い骨太なバンドサウンドが主体となっており、ヘビーな雰囲気がある。焦燥感を煽るようなギターサウンドが印象的。間奏のギターソロも圧巻。それでもサビはキャッチーな仕上がりとなっている。サビでの藤田千章によるコーラスワークはとても美しく、曲を効果的に盛り上げている。歌詞は恋人を失った男性の心情を描いたもの。「忘れても 構わないなら 悔やんだりしない」という2番のサビの歌詞の一節は失恋を経験した人なら誰もが共感できるような歌詞だと思う。力強さと繊細さを併せ持ったバラードとなっており、SLTのバラードの中でも特に管理人の好きな曲に入ってくる。アルバムの始まりが王道のバラードというのは当時のSLTの勢いを象徴しているように感じられる。


「Hold On」は先行シングル曲。TBS系ドラマ『素敵な恋をしてみたい』のエンディングテーマに起用された。爽やかなポップナンバー。これまでのシングル曲と比べても、王道なJ-POPにぐっと近づいてきたような印象がある。パーカッションがフィーチャーされており、他の楽器と比べても比較的目立って聴こえる。キラキラした音色のシンセはポップなメロディーをさらに鮮やかなものにしている。サビは当然キャッチーなものであり、一回聴けば口ずさめそうなほど。歌詞は恋人へのメッセージと取れるようなもの。サビの 「夜を超えて征くよ」という歌詞は力強さに満ちている。「ゆくよ」や「行くよ」にせず、「征くよ」にしたところに作詞家・藤田千章の実力を実感させられる。この表記にしたことで、一つ一つの問題をクリアして前に進んでいくような光景を浮かべやすくなっていると思う。王道なJ-POP志向でありながらも、SLTならではのマニアックな要素も持っている。SLTファンではない方に聴かせても好印象をもらえそうな曲だと思う。


「遥かな航海へ」はここまでの流れを落ち着けるようなミディアムバラードナンバー。タイトルの「航海」「たび」と読む。イントロはシンセが主体となったサウンドであり、キラキラした音作りがされている。それ以降はいつも通りバンドサウンドが主体となる。間奏のサックスソロは憂いのあるメロディーをさらに美しいものにしている。歌詞は恋愛を航海に例えたもの。「できるなら氷の壁で 湧き上がるものを閉じ込めたい」という歌詞が好き。燃え上がるような感情を必死でこらえようとしている主人公の男性の姿が浮かんでくる。全編通して極めて自然な形で航海の様子と恋心を重ねて描かれているのが印象的。 今作は一曲目から三曲目までの曲の繋がりが良い。そして、それぞれの曲の完成度も高い。前半からこれまでのSLTとの違いを実感させてくれる。


「Pray」はインスト曲。女性コーラスが起用されている。ブックレットに掲載されている写真を見る限りだと、今作のレコーディング地であるロサンゼルスにいる日本人が起用されているようだ。観光客かもしれないが。曲は「Wow Wow Wow」というコーラスがメイン。厳密に言うとインストではない。アルバムの流れを調整する役目がある曲だろう。


「With You」は先行シングル曲。S東洋醸造の「ハイリキ」のCMソングに起用された。SLTのメンバー本人も出演した。しっとりとしたバラードナンバー。後にベストにも収録されており、代表作と言える存在。サウンドはサビまではシンセが主体となっており、落ち着いた曲調で聴かせる。サビは力強くもキャッチーなメロディーとなっている。サビからはバンドサウンドが入って静かに盛り上がっていく。このサウンドの変貌に引き込まれる。間奏では叙情的なギターソロを楽しめる。歌詞に載せきれない想いは全てそこで表現されていると言っても過言ではない。歌詞は恋人を想うストレートな心が綴られている。「心は 過去に捉われて色褪せたりしない すべて 包んでしまえるさ」という歌詞が好き。誠実な男性像を思い浮かべてしまう。SLTの曲の中では数少ない、一般リスナーにも訴求できるような曲だと思う。


「Rise」は今作発売後にシングルカットされた曲。協和発酵の「ハイリキ」のCMソングに起用された。そのCMにはSLTのメンバーも出演した。アシッドジャズのテイストを感じさせるファンクナンバー。ライブでも盛り上げ担当の楽曲として定番の曲。キレの良いギターのカッティングと沼澤尚による力強いドラムが前面に出ている。「グルーヴ感」というフレーズはこの曲のサウンドのためにあると言っても良いだろう。 格好良いのに心地良い。そのバランス感覚に圧倒される。英語詞のみで構成されたサビは極めてキャッチーかつ力強い。佐藤竹善の英語の発音の上手さにも驚かされる。歌詞は恋愛における駆け引きについて描かれているという印象。「悪戯のつもりで居ても その気になって 後に引けなくなるのさ きづかないうちに」という歌詞が好き。色気溢れる佐藤竹善の歌声も相まって、曲全体からどことなくアダルトな雰囲気が感じられる。幅広い音楽性を持つSLTではあるが、その中のファンクの代表曲と言って良いだろう。
余談ではあるが、この曲はDreams Come Trueの中村正人と佐藤竹善が、同じ曲をベースにどちらの方が良い曲を作れるかというラジオ番組での企画から生まれた。シェリル・リンの「Got To Be Real」を元ネタにしているという。ちなみに、ドリカムの中村正人が作ったのが「決戦は金曜日」である。この曲と聴き比べてみると何となく似ているのがわかる。売上ではかなりの差があるが、どちらも完成度の高い名曲であることには違いない。


「Sunday Afternoon」は先行シングル「Hold On」のC/W曲。西村智彦作曲によるインスト曲。西村智彦によるアコギで構成されている。タイトル通り、日曜日の午後特有の眠くなってしまうようなまったりした雰囲気が感じられる。昼寝する時に聴きたくなる優しさがある。


「Slow Love Down」は重厚なロックナンバー。前の曲からは繋がって始まる。ハードロックのテイストを感じさせる力強いバンドサウンドが展開されている。特にギターはかなり歪んだ音色である。ギターサウンドはT-REXの影響を受けているとか。シンセの音色が耳に残るのだが、これはわざと古いシンセの音を使っているという。そのようなサウンドに反して、メロディーはどことなく哀愁が漂っている。聴き手の心をグッと掴むような強さが感じられるサビが印象的。歌詞は恋人や自らへの決意表明と取れるような内容。「流行りに漂わず 周りに 怯えない We really need the light 大切が 何かを 見分けたいだけ」という歌詞が顕著。サウンドやメロディーが管理人の好み。ベストの類には収録されていないが、されても良いのではないかと思えるほどの完成度。


「感じるまま~Humanity~」は実質的なタイトル曲と言えるミディアムナンバー。佐藤竹善のパワフルな歌声から始まる。その部分は英語詞で歌われている。R&Bのテイストも感じさせる独特な曲調が展開されている。ドラムは打ち込みによるもの。他の曲と比べると少し硬い感じの音色である。外国人による会話のような声も入っているのが特徴的。曲の後半では前作に収録された「Missin' You」がサンプリングされているという遊び心も。歌詞は忙しい日々を過ごす人々へのメッセージのようなもの。「めまぐるしく動く 毎日は急ぎ足 追われているだけで これからの事より 目先を捌くうちに 身が重くなるよ」という歌詞はそれが顕著に感じられる。「感じるまま」生きていくことはとても大変なことだと思う。それでもそのように生きられたらきっと楽しいのだろう。


「追憶~窓辺の風景~」はSLT王道のミディアムバラードナンバー。アコギや雨の降る音で曲が始まるが、途中からシンセが入ってポップなサウンドとなる。アコギとシンセの絡みは何とも言えない浮遊感と心地良さを生んでいる。サウンドやメロディーはどちらかというと、AORよりシティポップと言った方が良い感じ。思わず身を委ねたくなるような美しいメロディーが展開されているが、サビはその美しさを保ちつつ、キャッチーな仕上がりとなっている。歌詞は恋人と別れる瞬間を切り取ったもの。「立ち尽くし 溜まる(とどまる)面影は 儚い灯り 今日でさえ やがて 窓をつたい落ちる雫だと知らされる瞬間(とき)」という2番のサビの歌詞は、喪失感や虚無感がよく現れた繊細な描写がされていると思う。SLTならではのメロウな部分とポップな部分が見事に調和した名曲。ファン人気の高い曲というのも頷ける。


「I'm In Love」はインスト曲。藤田千章による作曲。今作に収録されている3曲のインスト曲はメンバーがそれぞれ作曲を担当したことがわかる。鼻歌のような楽しげなサウンドが印象的。タイトルから想像すると、恋している時の浮かれたような心情を表現しているのだろうか?アルバムの流れを調整する短めの曲とはいえ、メンバーそれぞれの趣向が反映されたものになっていると思う。


「It's City Life」は都会的な雰囲気を持ったミディアムナンバー。煌びやかなシンセの音色やキレの良いギターサウンドがそのようなイメージを高めている。間奏のサックスソロも曲を鮮やかに彩っている。淡々とした曲調で派手さはあまり無いものの、職人的な佇まいを感じさせるサウンドは味わい深さがある。サビの始まりは英語詞なのだが、メロディーとぴったり合っている印象がある。歌詞は恋人に会いに行こうとする男性を描いたもの。都会の喧騒をイメージさせる詞世界である。「楽しいことだけで満たされる 幸福(しあわせ)はまやかし」という歌詞が好き。サビでは「city life」と「Silly life」でさり気なく韻が踏まれている。その辺りの言葉遊びも印象的。管理人はSLT=都会的というイメージを何となく持っているのだが、そのイメージに沿った曲になっていると思う。


「きっと 何時の日か」は先行シングル「Hold On」のC/W曲。しっとりとした曲調で聴かせるバラードナンバー。シンセとストリングスが主体となったサウンドは温かみと何とも言えない厳かな雰囲気が感じられる。間奏のサックスソロは曲に哀愁を加えている。ゆったりとした曲調はメロディーの美しさを限りなく引き立てている。歌詞の一言一言を丁寧に歌い上げる佐藤竹善のボーカルは思わず聴き惚れてしまう。歌詞は離れ離れになろうとしている恋人たちが描かれている。遠距離恋愛や卒業をイメージさせる。「きっと 何時の日か 零れる程の 持ち切れやしない 愛を かかえたまま 迎えに 必ず 来るよ」という歌詞からは主人公の男性の強い想いがうかがえる。大切な人との別れを経験したことがある方は誰もが良いと感じられるような詞世界だと思う。今作のラストという位置にふさわしく、余韻を残してくれるバラードである。


そこそこ売れた作品なので中古屋ではよく見かけるが、中古屋で眠ったままにしておくには余りにも勿体無い程の完成度を誇る作品。
ポップで、お洒落で、格好良くて、美しくて、ファンキーで…SLTの楽曲の魅力をこれでもかというほどに味わえる。全編通して緻密に作り込まれたサウンドも魅力的だが、一回聴けばすぐに口ずさめてしまうくらいポップでキャッチーなメロディーも絶品。SLTの音楽に興味を持った方には是非とも聴いていただきたい。SLTの多彩な音楽性を知るにはうってつけの作品である。管理人の中ではSLTのアルバムの最高傑作という位置にある。

★★★★★