高野寛
2012-11-21
(再発盤)




【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 高野寛
2.10. 編曲 高野寛 小林武史
プロデュース 高野寛 
2.10.プロデュース 高野寛・小林武史

1.IS THAT LOVE? ★★★★★ 
2.カレンダー ★★★★★
3.RING ★★★★★
4.ある日、駅で ★★★★☆
5.アトムの夢 ★★★★☆
6.いつのまにか晴れ ★★★★★
7.薔薇色の悪夢 ★★★☆☆
8.五十歩百歩 ★★★☆☆
9.7つ目のサイクル 5つ目のベクトル ★★★★☆
10.BLUE PERIOD ★★★★★
11.WALTZ A WALTZ ★★★★☆

1989年7月5日発売
1998年9月23日再発
2012年11月21日再発
東芝EMI/イーストワールド
最高位61位 売上不明

高野寛の2ndアルバム。先行シングル「BLUE PERIOD」「ある日、駅で」を収録。チャートに関しては最高位こそ61位止まりだったものの、今作が初のアルバムトップ100入りだった。

前作のプロデュースは高橋幸宏が担当していたが、今作は高野寛のセルフプロデュース。次作以降はトッド・ラングレンとの共同プロデュースがされるので、高野寛のセルフプロデュースは1992年リリースの「th@nks」までない。なお、一部の収録曲では共同プロデュースで小林武史が参加している。

前作はネオアコのテイストを感じさせるポップスが多かったが、今作は緻密に作り込まれたポップスが展開されている。一聴しただけだと地味に感じてしまうかもしれないが、キャッチーかつ中毒性に溢れたサウンドやメロディーは高野寛の魅力である。
当時としてはかなり先進的なデジタルサウンドも取り入れられている。とは言っても全編に渡って使われているわけではなく、あくまで曲の引き立てに使っているくらい。そのバランスも丁度良い。今になって聴くと少々古臭さを感じてしまうが、丁寧なアレンジなのでそこまで気にならないと思う。


「IS THAT LOVE?」は今作のオープニング曲。美しく流れていくようなメロディーが展開されたミディアムナンバー。それでもサビはとてもキャッチーな仕上がりとなっている。アコギを始めとしたシンプルなバンドサウンドに、浮遊感のあるシンセが絡むサウンドは聴き心地が良い。サビではサンプリングされたと思われるストリングスも使われている。曲全体を通してカラフルな音作りがされている印象がある。歌詞は恋愛感情が芽生えた時の心が描かれたもの。タイトルからして若々しい雰囲気があるが。高野寛の曲にしては珍しく「可愛らしい」という感想を抱くような詞世界となっている。頼りないイメージの高野のボーカルもこの曲の世界観を引き立てている。「こうなる前に すぐに 君を忘れてしまうべきだった 同じところ グルグル」というサビの歌詞が好き。片想いをして苦しんでしまう時にはこのような感情を抱いてしまうのも無理は無い。
オープニングから中毒性の高いポップナンバーを据えてきた。今作は聴き手の耳を離れなくなってしまうような曲がこの曲以外にも沢山待っている。


「カレンダー」は爽やかなメロディーが心地良いミディアムナンバー。小林武史が高野寛との共同で編曲及びプロデュースに参加した曲。比較的ひねくれていない、ストレートなメロディーが展開されている。後半からはグッと盛り上がるのだが、その変貌振りがこの曲の聴きどころ。あまりに違和感無く、淀みなく流れていくメロディーには聴き惚れるばかり。サウンドは終始キーボードが主体となっている。恐らく小林武史が演奏したものだろう。メロディーの良さをこれ以上無いほど引き立てている。曲に寄り添うような音色である。後半から使われる、サンプリングによるものと思われるストリングスも曲を効果的に盛り上げている。歌詞は恋人と別れた男性の心情が描かれたもの。二人の幸せな日々は終わってしまった。カレンダーだけが二人の幸せな頃の記憶を残している。「甘い日々の中 隠れてた陰を 認めることなく 過ごしてきた僕達」という歌詞が好き。切なくも若さや瑞々しさを感じさせる詞世界だと思う。初期の高野寛を代表する名曲。


「RING」は今作のタイトル曲にして、先行シングル「ある日、駅で」のC/W曲。前の曲からは繋がって始まる。浮遊感のあるシンセの音色とアコギを中心としたシンプルなサウンドで聴かせる。余計なものを一切取り払ったようなサウンドではあるが、逆にそれに引き込まれる。ところどころで流麗なストリングスが入っており、メロディーの美しさを限りなく引き立てている。終始派手に盛り上がるような場面は無いものの、美しいメロディーには聴き惚れるばかり。歌詞は恋人へのメッセージと取れるような内容だが、よくわからない。タイトルのフレーズは一回も登場しない。「裸足になって その河を 渡ればいい」「裸になって その河を 渡ればいい」というサビの歌詞が印象的。色々と想像する余地を残した詞世界なので様々な解釈ができるのが魅力的。タイトル曲にふさわしい存在感を持った曲だと思う。


「ある日、駅で」は先行シングル曲。ミックスのエンジニアとしてトッド・ラングレンが参加している。トッド・ラングレンは後に高野寛の楽曲やアルバムのプロデュースを手掛けるようになるわけだが、この頃から共に仕事をしていたことがわかる。ゆったりとした曲調ながらも聴き手の心をグッと掴むようなキャッチーさがあるミディアムナンバー。シンセやキーボードの音色は幻想的な雰囲気を演出している。Bメロでは高野による一人コーラスがされており、曲の世界を彩る。この曲ほどコーラスワークが凝った曲は高野寛の曲には珍しい印象がある。歌詞はタイトルからも想像がつくように、駅を舞台に、恋人と別れた男性の心情を描いたもの。ラストの「止まらない人の河 流れ込んでいく駅 空白の僕さえも 鉄の河の中で待っている」という歌詞が印象的。人混みの中で立ち尽くす男性の姿が浮かんでくるような切ない詞世界である。シングル曲というには少し地味な印象が否めないものの、それでもしっかりと耳に残る曲となっている。


「アトムの夢」はここまでの流れを変えるようなテクノポップナンバー。高野寛はYMOに強い影響を受けているが、それからの影響を前面に出して作られたという印象がある。サウンドは当然シンセが主体となっている。煌びやかかつSFのような雰囲気を感じさせるシンセの音色には圧倒される。異色な曲調ではあるものの、それでも高野寛のポップスという範疇に収めてしまう技術には脱帽。流石にシンセの音には時代性を感じてしまうものの、作り込まれたサウンドなので違和感無く聴けてしまう。歌詞は明るい曲調やサウンドに反して、原子力発電を批判した社会派な内容。「汚れた地球は いつまで続く? 僕等の命は いつまで続く?」という歌詞が印象的。チェルノブイリの事故があった後だったからとのことだが、今聴いても考えさせられるものがある。


「いつのまにか晴れ」はしっとりと聴かせるスローナンバー。淡々としたメロディーが展開されているが、サビはしっかりとキャッチーな仕上がりとなっている。サウンドはシンセが主体となっている。「子供の声がする」という部分ではサンプリングされた子供の声が使われていたり、サビでは水滴の音が使われていたりとシンセが曲の演出に活用されている。間奏のハーモニカは曲の哀愁を引き立てている。しかし、曲全体としてはそこまで盛り上がる部分もなければ、音の数が多いわけでもない。それでも何故か耳に残る。これぞ天才ポップス職人・高野寛の実力である。歌詞は内省的なテーマのもの。「終わらない季節 花のように目を覚ます すべての物 解き放つ自由 手に入れたら 雲も消えてゆく いつの間にか晴れ」という歌詞が好き。現状は「いつも雨」のようだが、どのような状況を描いているのだろうか。字面通り天気のことなのか、人の心などの隠喩なのか。詞世界でも味わい深さがある。この曲もメロディーや音作りの面で魅かれた。何度聴いても引き込まれてしまう名曲。


「薔薇色の悪夢」は高野寛にとっては異色なピアノロックナンバー。印刷している時のような音から曲が始まり、ピアノがなだれ込んでくる。バンドサウンドと同じくらいピアノが前面に出て曲を盛り上げている。一筋縄ではいかない捻くれたメロディーは高野寛の真骨頂と言える。今作の中では数少ないロック色の強い曲ということもあってか、高野寛のボーカルは他の曲よりも力強いものになっているように感じられる。歌詞は別れた恋人のことを忘れられずに苦しんでいる男性を描いたもの。心なしか今作は失恋モノが多い印象がある。昔の恋人との幸せな思い出を「薔薇色の悪夢」に例えて描いている。哀愁が漂うものの、どことなくコミカルな詞世界となっている。この曲のようなネタ路線と言える曲は初期の高野寛のアルバムに見られる。


「五十歩百歩」は遊び心溢れるミディアムナンバー。サウンドはアコギが主体となったアコースティックなもの。複雑に編み込まれたメロディーが展開されているが、この曲はとにかくキャッチーである。この曲最大の特徴は「五十歩百歩」のフレーズが多用されていること。管理人はこの曲以外に「五十歩百歩」が歌詞に登場する曲を知らない。しかもメロディーとぴったり合っている。そのせいで一回聴こうものなら耳を離れなくなる。ある意味今作で最もキャッチーな曲と言っていいだろう。歌詞全体としては「箱の中で今もなお 僕達は 足踏みを続けている」という歌詞を始めとして、内省的な世界観を持っているのだが、「五十歩百歩」のフレーズがあまりにもインパクトがあるのであまり印象に残らない。この曲のような、少しふざけたネタ路線と言える曲は初期の高野寛の楽曲で定期的に見られる。


「7つ目のサイクル 5つ目のベクトル」はアコースティックなサウンドが心地良いポップナンバー。シンプルなバンドサウンドが主体となっているが、中でもアコギが前面に出ている。後半からはシンセによるブラスが使われる。サビまでは淡々と進んでいくが、サビになると一転して跳ね上がるようにポップなメロディーになる。かなり曲調が変わるのだが、それを違和感無く聴かせてしまう技術には驚くばかり。歌詞はメッセージ性の強いもの。全てのものは繰り返されるという趣旨のことが語られた歌詞となっている。「そう きっと繰り返す 時間も恋も過去も」という歌詞が好き。「7つ目」「5つ目」という数字のチョイスが気になる。ただ単に語感が良かったからなのだろうか?


「BLUE PERIOD」は先行シングル曲。小林武史が高野寛との共同で編曲及びプロデュースで参加している。一度聴いたら耳を離れなくなるような、確かなキャッチーさを持ったミディアムナンバー。美しさとポップ性とを両立させたメロディーは高野寛ならでは。この曲のようなミディアムナンバーにこそポップス職人としての真価が発揮されているように感じる。
サウンドはシンプルなバンドサウンドが主体になりつつも、印象的な場面でシンセが使われている。シンセの使い方の上手さは曲の中毒性を高めている。これは小林武史の功績も大きいだろう。歌詞は恋人との別れがテーマになっている…と解釈している。タイトルの「BLUE」は地球を表しているというが、それを考慮して聴くと内省的なテーマも含まれているように感じられる。繰り返し歌われる「このままで止まらないで つかんだら離さないで この魔法とぎれないで 今から何かが変わる」という歌詞が特に耳に残る。 何度聴いても新鮮さが無くならないこの曲そのものが「魔法」なのではと感じてしまう。初期の高野寛を代表する名曲であり、キャリアを通じても屈指の名曲だと思う。


「WALTZ A WALTZ」は今作のラストを飾るインスト曲。高野寛はインスト曲でアルバムを締めるパターンが多い印象がある。幻想的なシンセの音色で構成されており、夢の中に潜り込んでいくような雰囲気がある。ゆったりと始まったこのアルバムはゆったりとしたインストで締められる。だからこそ何度も聴きたくなるのだろう。


ヒット作ではないが中古屋ではそこそこ見かける。初期の高野寛の曲を聴くなら今作が良い。デビュー作から曲のクオリティはかなり高かったものの、今作はセルフプロデュース作ということもあり、そのクオリティはさらに高まっている。その中でも二人のポップス職人が共演した2曲は共に素晴らしい完成度である。
全曲共にかなりコンパクトであり、11曲という収録数ではあるが全編は40分程度。それも何度も聴きたくなる中毒性に繋がっているのだろう。ヒット曲は無いものの、高野寛の音楽に触れたい方にはおすすめしたい一作。
高野寛のアルバムの中でもトップクラスの完成度を誇る作品だと思う。名盤。

★★★★★