小沢健二
2002-02-27

【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 小沢健二
プロデュース         小沢健二

1.ギターを弾く女 ★★★★☆
2.愛について ★★★★★
3.麝香 ★★★★★
4.あらし ★★★★☆
5.1つの魔法(終わりのない愛しさを与え) ★★★★☆
6.∞(infinity) ★★★★☆
7.欲望 ★★★☆☆
8.今夜はブギーバック/あの大きな心 ★★★★★
9.bassline ★★★★☆
10.風と光があなたに恵むように ★★★☆☆
11.甘い旋律 ★★★★☆
12.踊る月夜の前に ★★★★★

2002年2月27日発売
イーストワールド/東芝EMI
最高位7位 売上7.3万枚

小沢健二の4thアルバム。先行シングルは無し。音楽活動としてはシングルで言うと4年1ヶ月振りの新作となり、アルバムのリリースで言うと当時の小沢にとって5年4ヶ月振り。

数年振りの新譜のリリースということで小沢自身も相当な変化を遂げている。何よりも変化しているのは小沢のボーカル。渡米後にボイストレーニングをしたようだ。かつての細く頼りない感じの高い声ではなく、囁くようなクールなイメージのボーカルになっている。「王子様」は卒業したということだろうか?「オザケン」のイメージで今作を聴くとそのボーカルに慣れるのに精一杯だろう。それくらいの変化を遂げてしまった。

ジャンルはR&B、ソウル、AORに寄ったものになっている。全編アメリカでレコーディングされている。ニューヨークとマイアミ。バックコーラスとして起用した人も全員現地の人のため、日本語が片言になっているのが特徴。
シングルカットは一切されておらず、PVも制作されていない。
今作の大きな特徴の一つが今までとは一線を画した歌詞。アダルトな、恋人同士の夜を描いたような濃厚な世界を持った歌詞が多数ある。聴いているだけでもそのようなことを想像できる歌詞である。二人称は今まで「君」がメインだったが、今作は「あなた」が多用されている。その点も印象的である。

歌詞カードも非常に見辛い。全曲の歌詞が横に書き連ねてあるだけ。全曲通して一曲と扱ってほしいという意味だろうか?ジャケ写もバーコードの出来損ないのような意味不明なものになっている。明らかに他の作品とは違った雰囲気がある。


「ギターを弾く女」は幻想的なイントロが印象的なオープニング曲。リリース当時に聴いていた人は恐らく歌声が流れ出した瞬間に耳を疑っただろう。曲そのものはジャズテイストの強いR&Bと言ったところ。控えめでありながらも世界観は耽美的。女性コーラスとの掛け合いが想像力を膨らませる。


「愛について」はピアノを主体としたサウンドが心地良い一曲。7分弱ある曲ながらも飽きずに聴くことができる。「愛 火遊び 二人 燃やしてみたい炎 愛 火遊び ゆっくり 燃やしてみたい炎」という囁くようなサビの歌詞、メロディーが非常にセクシー。ただ、セクシーとは言っても下品に感じさせないのが小沢らしい。


 「麝香」は今作の中で最もキャッチーな一曲。タイトルは「じゃこう」と読む。ベースが主体となったサウンドが非常に格好良い。「動く動く あなたの心 それを感じたい 穢れのない魔法使い この世界にいる喜び」というサビの歌詞とメロディーのぴったり感が凄い。ライブバージョンはライブ盤「我ら、時」に収録されているが、そちらも出色の出来。小沢のキャリア全体を通してもかなりの名曲だと思う。


「あらし」はジャジーなピアノが心地良いR&B色が強い一曲。遠くから聴こえて来るようなピアノの音である。コーラスワークが冴え渡る。畳み掛けてくるようなバックコーラスの声が印象的。「あらし」とは言っても激しい曲調ではない。むしろ非常にゆったりとしている。


「1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)」はかつての小沢を髣髴とさせる一曲。1996年頃の小沢の楽曲を思わせる。ここまでかなり官能的な世界観だったので、箸休めといった感じだろう。歌詞は爽やかなものになっている。この曲もベースの主張が強い曲。「パパラッパ」と繰り返されるコーラスが印象的。


「∞(infinity)」は再び官能的な世界が展開される一曲。何度も繰り返される「向かい合わせの鏡 向かい合わせの拡がり」という歌詞が意味深。タイトルはその様子を記号に表したものなのかもしれない。「美しい革の匂い」「悩ましく重い痛み」とSMを思わせる歌詞がある。静かな中に感じさせる疾走感がたまらない一曲。


「欲望」はタイトルからして直球な、欲望について語られた一曲。ポップでありながらも淫靡なトラック。この曲はトラックをメインにして聴いてみてほしい。段々と迫ってくるような感覚がある。


「今夜はブギーバック/あの大きな心」は小沢の代表曲と言える「今夜はブギー・バック」のセルフカバー。スチャダラパーによるラップの部分はバッサリとカットされ、元々あった歌詞も一部変更されている。新たに歌詞が追加された所もある。原曲のイメージを持って聴こうとしがちだが、声も含めて色々と変わっているため完全な新曲のように思って聴ける。原曲も夜の行為を思わせるようなイメージがあったが、そのイメージがさらに強くなっている。こちらのバージョンもありだ。管理人はむしろ原曲よりもこちらのバージョンの方が好き。


「bassline」は「愛について」を使用した曲。ベースラインの主張を強くし、7分程あった曲を3分弱に短くした。歌詞も残してある。サンプリングと言うのも違うかもしれない。原曲の世界観を短い中に凝縮したイメージ。


「風と光があなたに恵むように」は「1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)」を使用した曲。原曲の中でも印象強い「パパラッパ」と繰り返されるコーラスをメインにしている。完全にアルバムの箸休め的な存在だろう。曲数稼ぎ感が否めないものの、アルバム全体の流れを考えると必要と言える。


「甘い旋律」はシンセが中心になったサウンドが印象的な一曲。小沢のボーカルに絡みつくような女性コーラスが良い。歌詞は浮気について歌っていると解釈している。


「踊る月夜の前に」はアルバムのラストを飾る一曲。「麝香」を使用した曲。静かにアルバムの中の世界から解放されるようなイメージ。同じ楽曲を使っているのだが、元とはまた違った魅力があるのが面白い。


比較的中古屋で見かける一作。恐らく小沢の変貌ぶりに適応できなかった方が売ってしまったのだろう。一回聴いただけでは今作の魅力は全く分からない。何回か聴くと異様な中毒性が生まれる。「LIFE」の頃の小沢とは別人だと思って聴いた方がいい。「王子様」時代の小沢の楽曲をアイドル的に聴いていた方にはおすすめしない。小沢の音楽が単純に好きでよく聴いていた(聴いている)という方なら適応できるかもしれない。

ここまで妖しげな雰囲気を放つアルバムに出会ったことはない。しかし、何回聴いても完全に理解できないような妖しさが今作の最大の良さだろう。
ちなみに、今作のタイトルは「折衷主義」「取捨選択する」といった意味がある。何とも意味深なタイトルである。

★★★★★