Flipper's Guitar
1993-09-01


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 Double K.O. Corp.
プロデュース         Double K.O. Corp.


1.ドルフィン・ソング ★★★★★
2.グルーヴ・チューブ ★★★★★

3.アクアマリン ★★★☆☆
4.ゴーイング・ゼロ ★★★★★
5.スリープ・マシーン ★★★★★
6.ウィニー・ザ・プー・マグカップ・コレクション ★★★☆☆
7.奈落のクイズマスター ★★★★☆
8.星の彼方へ ★★★★☆
9.世界塔よ永遠に ​★★★★★


1991年7月10日発売
1993年9月1日再発
ポリスター
最高位8位 売上3.7万枚


フリッパーズ・ギターの3rdアルバム。先行シングル「GROOVE TUBE」を収録。今作発売後に「BLUE SHININ' QUICK STAR 星の彼方へ」がシングルカットされた。今作発売後程なくして解散を発表したため、今作が最後のオリジナルアルバムとなる。オリジナル盤の初回盤は虫眼鏡2つを利用した「飛び出すフリッパーズ」が封入されている。


前作「CAMERA TALK」はポップな曲が並んでいたが、今作は当時イギリスで流行していたシューゲイザー、マッドチェスターサウンドに影響を受けた曲が並んでいる。全編に渡ってサンプリングが行われている。しかも無断によるサンプリングのため、権利の都合上現在に至るまでリマスター再発が行われていない。他のオリジナルアルバムはリマスター再発されているが、今作だけは未だ実現していない。


サウンド面ではプライマル・スクリーム、ストーン・ローゼズ、マイ・ブラッディ・バレンタイン、ビーチ・ボーイズ等のアーティストの影響を受けている。歌詞は今までの作品よりもさらに難解かつ退廃的な内容になっている。
今作のタイトルはアメリカのバンドのモンキーズが出演した映画『HEAD』に由来しているようだ。



「ドルフィン・ソング」はアルバムのオープニング曲。ビーチ・ボーイズの「God Only Knows」がサンプリングされている。元ネタが有名過ぎる… 歌い出しから「ほんとのことが知りたくて 嘘っぱちの中旅に出る」と今作のテーマのようなフレーズが出てくる。海の底にいるような深みのあるサウンドが展開されている。サイケな雰囲気を持った曲。



「グルーヴ・チューブ」は先行シングル曲。マツダのファミリアのCMソングに起用された。フリッパーズ後期の代表曲と言える。シングル曲のためか今作では最もポップな曲である。タイトル通りグルーヴ感溢れるサウンドが心地良い。エロい雰囲気が漂った曲。「僕の特別なバナナ だらしなく甘い色を塗ろう」というフレーズが顕著である。他にも女性の喘ぎ声がサンプリングされている。



「アクアマリン」は深海の中にいるような暗く重いサウンドが展開されている曲。サウンド面ではマイ・ブラッディ・バレンタインの影響を受けていると思われる。不気味な程に心地良く甘い雰囲気があり、そっと夢の中に引き込まれるようなサウンドである。



「ゴーイング・ゼロ」はオルガンが前面に出たノリの良い曲。フリッパーズの楽曲で語られてきた思想が集約されているように感じられる歌詞が印象的。「ゴール目指すなんてやめよう」「上を向いた涙なんてのは鼻で笑おう」「だんだん小さくなる世界で僕は無限にゼロをめざそう」「止まるくらい スピードを上げてずっとずっと」…無気力なようでいて誰よりも熱い心が感じられる。答えなんて無いのかもしれない。世界を他人とは違う目で見渡すため、主人公は無限にゼロを目指す。



「スリープ・マシーン」はファンキーなノリの曲。現実逃避をする青年を描いた曲。歌い出しから「さあ逃げるのさそっとそっと僕は」と言ってのけたと思えばその後は「話なんか何も聞いちゃいないのさ あぁ待ち受ける浮き世の摂理」と世間を皮肉ってみる。英語詞のサビが心地良い。



「ウィニー・ザ・プー・マグカップ・コレクション」はハードなギターサウンドが前面に出た曲。日本語詞でも英語に聞こえるような小山田の歌い方が印象的。「人生って奴はウィニー・プーだけのマグカップ・コレクション」というフレーズ。意味は分からないが何故か好きである。独りよがりの趣味ということだろうか?



「奈落のクイズマスター」はアルバムのハイライトと言える一曲。小沢曰くこの曲がアルバムのクライマックスに来るように曲の配置も考えたという。サウンドはプライマル・スクリームの楽曲をサンプリングしている。
「そしてそっとクイズを出す 悪魔が現れるのを待つ 長い宇宙の瞬間を 僕はぼんやり待ち続けてる」「雪はそっと僕を包む 僕はだんだん目が醒えてく 広い宇宙の点と線を いつまでもつなぎ続けてる」… 自分たちの曲作りへの姿勢を示したような歌詞が印象的。終始高揚感溢れるサウンドになっている。



「星の彼方へ」は今作発売後にシングルカットされた曲。MIZUNOのスキーウェアのCMソングに起用された。闇の中を抜けていくような解放感と疾走感に満ちた曲になっている。



「世界塔よ永遠に」はアルバムのラストを飾る曲にしてフリッパーズのラスト曲。バンドの終わりを告げるような歌詞が展開されている。10分越えの大作である。
「ところが全てが夢なわけでもないし そもそも全てと呼べるものなど無い! 永遠望むほど闇は更に深く 動けば沈むよまるでアリ地獄」
「僕は穏やかに死んでゆく いつも少しずつ死んでゆく ひどく穏やかに死んでゆく 僕はやわらかく死んでゆく 言葉などもう無いだろう」
シニカルな雰囲気にどんどん引き込まれてしまう。そんな彼が取った行動は大声で叫び、笑うこと… 



中古屋では意外と見かける。リマスター盤が出ていないので音質が悪いものの、逆にモヤモヤした雰囲気が強調されて良い感じである。とてつもない情報量と虚無感に満ち溢れた作品になっている。ここまでの作品ができたら解散するのも無理は無い。偉大なる皮肉屋と言うべき青年二人が築いた名盤。


★★★★★