電気グルーヴ
1993-12-01


【収録曲】
プロデュース 電気グルーヴ
1.2.10.作詞 石野卓球
3.4.5.作詞 ピエール瀧
1.2.4.8.9.10.作曲 石野卓球
3.6.作曲 良徳砂原
5.作曲 ピエール瀧
7.作曲 Gershon Kingsley


1.Happy Birthday ★★★★★
2.Disco Union ★★★★★
3.ハイキング ★★★☆☆
4.ニセモノ フーリガン ★★★★☆
5.富士山 ★★★★★

6.Stingray ★★★★☆
7.Popcorn ★★★★★
8.新幹線 ★★★★★
9.Snow and Dove ★★★★☆
10.N.O. ★★★★★+2


1993年12月1日発売
KI/OON SONY RECORDS
最高位5位 売上21.0万枚


電気グルーヴの4thアルバム。先行シングル「N.O.」を収録。最高位は当時の電気グルーヴにとって最高の5位を記録した。純粋なオリジナルアルバムとしては2年振りのリリースとなった。


この当時、石野卓球はロンドンに渡ってアシッド・ハウス・リバイバルを体験した。「ロンドンがバッキバキだった頃」と石野は語っている。その影響を受けて今作が制作された。そのような背景からか、前作よりも本格的なテクノやハウスミュージックが展開されたアルバムになっている。


今作はハウスミュージックやテクノの世界に大きな影響を与え、「アシッド・ハウス」というジャンルを確立することとなった名機、ローランドTB-303が全編通して使用されている。ベースの音に特化したシンセサイザー。シーケンスが内蔵されていたので、短いループならそれをプログラミングして記憶させることができたという。「偶然」によって幻想的な、幻覚を見ているようなサウンドを作ることができ、それによって高い人気を得た。
このTB-303はブックレットの中の写真にも登場している。メンバーが持っている。意外にも小型のシンセサイザーである。



今作の特徴はインスト曲が多いこと。10曲中4曲がインスト曲である。そのため、レコード会社からポップ性に欠けるのでセールスが落ちるのではとクレームがついた。メンバーは強く反対した。結局、インディーズ時代から歌われていてファン人気が高かった「N.O.」をボーナストラックのような扱いで収録することで解決し、リリースすることができた。



「Happy Birthday」は今作のオープニング曲。『なるほど!ザ・ワールド』のエンディングテーマに起用された。サウンドはジャーマンテクノ風。サウンドは格好良いものの、歌詞は相変わらずの電気節。タイトルから誰かの誕生日を祝うのだろうと思えば「おめでとう自分」と自分自身を祝う。新たな音楽に出逢い、音楽性が変わった電気グルーヴ自身へのメッセージなのだろうか?新しい自分に生まれ変われるような、根拠の無い自信をくれる曲。



「Disco Union」はディスコ・ソウルテイストの一曲。ファンクの風味もある。タイトルは「ディスクユニオン」をもじったもの。曲名だけ聞くと分からないかもしれないが、聴いたことがあるという方が多いかもしれない。人気クイズ番組『Qさま』のコーナーの一つ、「プレッシャーSTUDY」の解答時のBGMに使われている。黒人女性のソウルフルなボーカルが入っている。



「ハイキング」は明るい曲調ではあるが、何故か不安を煽る不思議な一曲。この印象は砂原良徳の思惑通りになっている。そのような意図を込めて砂原はこの曲を作ったという。ピエール瀧による、無邪気ながらも狂気も感じさせる歌詞がこの曲が与える印象を演出している。



「ニセモノフーリガン」はハウスミュージックの要素が濃い曲。ファン人気も高い。踊るならこの曲ではないだろうか?ピエール瀧による、とにかく中身の無い散文的な歌詞が展開されている。何も考えずに踊れると思う。ただ、語感はとても良い。「ニセモノ フーリガン・エセ フーリガン」と繰り返されるフレーズが異様に耳に残る。



「富士山」は電気グルーヴのネタ路線の名曲。ピエール瀧作曲による曲。曲はかなり単純。小学生が鍵盤系の楽器を適当に演奏したらできそうな感じ。ライブでも盛り上がる人気曲。パンク的な雰囲気もある。「ふっじっさーん」という瀧のボーカルが印象的。
/^o^\フッジッサーンというAAも作られており、ファンではない層からもそこそこ知られている。カラオケで盛り上がると思って歌いたくなるが、それは罠。意外と歌っていない部分(特に歌い出しまでが長い)が多く、仲間と行って歌う場合はその部分をいかに食い繋ぐかが盛り上がるかどうかの勝負所となる。



「Stingray」はインスト曲。ここからは暫くインスト曲が続く。砂原良徳作曲。低音の響きが格好良い。クラブでかかっていそうな本格的なダンスミュージック。この曲は後に砂原ソロのアルバムで「Stinger Stingray」という名前で続編が作られた。



「Popcorn」はテクノの先駆けと言える存在の名曲のカバー。テクノ音楽の始祖として名高いガーション・キングスレイによる作曲。それをアシッド・ハウステイストの強いアレンジにしてカバーしている。曲名は知らなくても意外と聴いたことがある方が多いかもしれない。様々な番組やゲームで使われている。ファミコンのようなピコピコとした感じの音が印象的。プログラミングは砂原が行った。



「新幹線」は今作最長の10分近い曲。これが今作のハイライトと言える。アシッド・ハウス系のサウンド。石野曰く「東海道新幹線の三島辺りの車窓から見た風景のイメージ。」自信作だったようで、当時の石野は「自分の最高傑作」と語っていた。幻想的な、浮遊感あるサウンドがとにかく心地良い。




「Snow and Dove」はここまでの流れを落ち着けるような静かな曲。環境音楽のテイストがある。一面の銀世界が広がっているような感覚になる。静謐な雰囲気がたまらない。寝る前に聴きたくなるような静けさと優しさがある。



「N.O.」は今作のラストを飾る曲。今作発売後にシングルカットされ、電気グルーヴにとっては初のシングルヒット曲となった。インディーズ時代からあった曲で、インディーズ時代にリリースしたアルバムで「無能の人」という曲名でこの曲の元のバージョンが収録されている。タイトルは石野が強い影響を受けたテクノバンドのNew Orderの頭文字を取ったもの。
冴えない若者に寄り添って、そっと背中を押してくれるような優しい歌詞がこの曲の素晴らしい点。モヤモヤした感情を非常に上手く切り取っている。
「学校ないし 家庭もないし ヒマじゃないし カーテンもないし 花を入れる花瓶もないし 嫌じゃないし カッコつかないし」というサビの歌詞。これ程若者の虚無感を表現した歌詞もそうは無い。
「先を思うと不安になるから 今日のトコロは寝るしかないね」という2番の歌詞。そして、「話すコトバはとってもポジティヴ 思う脳ミソホントはネガティヴ バカなヤングはとってもアクティヴ それを横目で舌ウチひとつ」という歌詞。自分のネガティブな性格を受け止め、それでも頑張ろうと思わせてくれる、管理人にとっての人生の応援歌である。



ヒット作ということもあり、中古屋では比較的見かける一作。電気グルーヴならではの本格的なテクノ、ハウスサウンドを堪能できる。全体的に流れが良く、通して聴きやすいアルバム。「富士山」や「N.O.」と言った著名な曲が収録されているため、ライトリスナーにも聴きやすい。電気グルーヴの音楽に興味がある方には是非とも聴いていただきたいアルバム。

★★★★★