【収録曲】
全曲作詞作曲 KAN 
全曲編曲       KAN
1.4.8.編曲 KAN/小林信吾
10.編曲 小林信吾
プロデュース  渡辺忠孝 KAN

1.世界でいちばん好きな人 ★★★★☆
2.キリギリス ★★★★★
3.彼女はきっとまた ★★★★☆

4.小さき花のテレジア ★★★★★
5.エンドレス ★★★★☆
6.おしえておくれ ★★★☆☆
7.遥かなるまわり道の向こうで ★★★★☆

8.カレーライス ★★★★★
9.RED FLAG(一般道路速度超過) ★★★★☆
10.アイ・ラブ・ユー(version:CJP) ★★★★☆


2006年8月30日発売
アップフロントワークス zetima
最高位28位 売上0.8万枚


KANの14thアルバム。先行シングル「カレーライス」を収録。今作発売後に「世界でいちばん好きな人」がシングルカットされた。前作アルバムから5年振りのリリースとなった。


2002年にKANは「フランス人になりたい」と言い残してフランスに移住した。それにあたって、日本での音楽活動を休止した。パリで基礎からクラシックピアノを習い直したようで、現地の音楽学校に中途入学した(2003年1月末)という。2004年6月にそこでの課程を修了し、7月に帰国し、音楽活動を再開。
2005年には現在まで不定期で行っている、KANの単独による弾き語りライブツアー「弾き語りばったり」を開始。


それらの経験を生かして制作されたのがこのアルバム。とてもバラエティに富んだ内容になっている。KANの王道と言える、ピアノを主体にした曲や、ロックテイストの曲、バラード… KAN本人も「10曲10キャラクター」とコメントしている。


ジャケ写やブックレット内の写真は全てパリ在住の間に撮影したもの。ジャケ写はKANらしいユーモア溢れるものになっている。



「世界でいちばん好きな人」は今作発売後にシングルカットされた曲。王道のバラード曲。「ひねりがない」とKAN本人も語っているが、余計な飾りが無い直球なバラード。タイトルからも察しがつくが、恋人への永遠の愛を誓うような曲。サウンドはピアノが前面に出たもの。ストリングスが効果的に使われている。
「日本がずっと平和なまま 続いて行くとは限らない だから今このふつうの日々を大切に生きる」「遠くで起きてる戦争は いつ終わるかもわからない せめてぼくらはずっと互いを 許し合い生きよう」という歌詞は今だからこそ、さらに胸に響く。



「キリギリス」は今作でも屈指のポップな曲。KAN曰く「ポール・マッカートニーとチャイコフスキーの共作」とのこと。「考えて組み立てていった曲」らしい。跳ね上がるようなテンポが非常に心地良い。ポップスとクラシックがこれ以上無い程美しく共存しているサウンド。歌詞は遊び心のあるものになっている。タイトルの「キリギリス」はKAN自身の比喩。「飛んでも8分 駅から5分」と、不動産のチラシのようなフレーズが出たと思えば、「ぎりぎりっす」と韻を踏んでみたり、「この曲構想あしかけ5年 完成系は3分40」とこの曲についての解説を入れてみたりとKANにしかできない詞世界が繰り広げられている。これは名曲。


「彼女はきっとまた」は1980年代のJ-POP風の曲。何となく1980年代後半~1990年代前半のKANの曲っぽいと思ったら本人がそれを狙って作ったようだ。サウンドは打ち込みメイン。彼女に逃げられてしまった友人を励ます内容の歌詞。「彼女はきっとまた戻ってくる」と励ましているが、その根拠は「ぼくの個人的見解」「ぼくの主観的推測」と何ともアテにならないもの。曲中には「ん~ん、どぉなんでしょう」と長嶋茂雄のモノマネを披露している。ラストは 「彼女はきっとまた戻ってくる …と、思うよ」と言ってシメる。優しいけど頼りないこの感じが実にKANらしい。



「小さき花のテレジア」はKANの王道と言えるピアノ弾き語りバラード。「秋、多摩川にて」の路線を受け継いだ曲。曲は1999年に完成していたが、歌詞ができず、コツコツと書いていったようだ。丁度3分くらいの短い曲。流麗なピアノがとても心地良く、いつまでも聴いていられるような感覚になる。恋人同士が河川敷を歩くという内容の歌詞は何とも微笑ましい。


「エンドレス」は浜田省吾のモノマネをした一曲。サウンドや歌い方も似せている。KANはかなり拘ったようで、浜田省吾と活動しているミュージシャンを多く呼んでいる。ギターの町支寛二(浜田の楽曲のバックコーラスもしている浜田の長年のパートナー)、ピアノの福田裕彦、ベースの美久月千晴、ドラムの小田原豊… この曲を制作するにあたって、浜田省吾本人にも許可を得ているという。歌詞にも「浜省の名曲がエンドレス」と出ている。歌詞はKANと長年の付き合いだという札幌のSTVのディレクターの木村明則さんとの温泉旅行の思い出を綴ったもの。木村明則さんは熱心な浜田省吾ファンだという。ここまで丁寧にパロディーをされると文句のつけようもない。浜田省吾の曲を聴いたことがある方なら笑ってしまうこと請け合い。


「おしえておくれ」はファンクテイストの曲。心なしか岡村靖幸っぽい。歌い方や詰め込まれた歌詞は岡村靖幸を彷彿とさせる。失恋をコミカルに描いた詞世界はKANならでは。さりげなく韻が踏まれている。曲も跳ね上がるような感じ。KANのもう一つの王道と言える、おふざけソング。



「遥かなるまわり道の向こうで」はタイトル曲。ずっしりとした重みを感じさせるサウンド。KAN自身の人生を語っているような歌詞。フランスに渡った経験も歌詞の中に生かされているのだろう。そのため、今までもそのような曲があったが、さらに重厚感が増している。



「カレーライス」は先行シングル曲。帰国後初のシングル。落ち着いた大人のポップスと言った感じの曲。夫婦の関係をカレーライスに例えた歌詞が素晴らしい。「作り過ぎたカレーを翌朝食べるように 一度さめて また温めて それでいい」という歌詞が印象的。喧嘩して出て行ってしまった奥さんへの「もし君が本当にいなくなったら ぼくはどうすればいいんだろう 手をつないで帰ろう とりあえず」という言葉は本心なのだろう。素敵な夫婦の仲である。



「RED FLAG(一般道路速度超過)」は交通違反について歌ったハードロック。同じテーマの曲は「WHITE LINE~指定場所一時不停止~」がある。(「KREMLINMAN」収録)これはKANの実話だと思われる。その交通違反のエピソードと、自身の考えを盛り込んだ歌詞。ライブでは盛り上がりそうな曲。終わり方が何とも意味深。結局交通違反を繰り返してしまうのだろうか?テーマはどうあれ、面白い曲である。



「アイ・ラブ・ユー(version:CJP)」は「カレーライス」のC/W曲のリテイク。編曲は珍しく小林信吾が単独で行った。ジャズテイストのアレンジになっている。これまたストレートなラブソング。



あまり店頭では見ない印象がある。
とてもバラエティ豊かな内容になっている。全曲通して43分程度と比較的コンパクトなアルバムで、聴きやすい。ベスト盤の「IDEAS」に収録されている「世界でいちばん好きな人」「カレーライス」が収録されているため、それらを聴いて気に入った方はおすすめ。
一回聴いただけだと「ん?」と思ってしまうようなアルバムたが、二回目になると「おっ」と思える。聴く度にハマれる一作。

★★★★☆