高野寛
2012-11-21


【収録曲】
全曲作詞作曲編曲 高野寛
7.作詞 生田朗
プロデュース 高橋幸宏


1.See You Again ★★★★★
2.二人のくぼみ ★★★★★
3.恋愛感情保存の法則 ★★★★☆

4.宝島まで ★★★☆☆
5.Outsomnia ★★★☆☆

6.国境の旅人 ★★★★★
7.September Dream ★★★★☆
8.Play Back ★★★★☆
9.夜の海を走って月を見た ★★★★★
10.世界は悲しすぎる ★★★★☆

11.大陸の子 省略


1988年10月26日発売
1998年9月23日再発
2012年11月21日再発
東芝EMI
ユニバーサルミュージック(再発盤)
100位圏外 売上不明

高野寛の1stアルバム。先行シングル「See You Again」を収録。プロデュースは高橋幸宏が担当した。

高野寛はYMOに強い影響を受けたアーティストである。デビューのきっかけは、高橋幸宏とムーンライダーズの鈴木慶一が主催した「究極のバンド」オーディションに合格したこと。それをきっかけに、主催者二人のユニットのザ・ビートニクスのツアーにギタリストとして参加するようになった。オーディションの時点では、後の高野寛の音楽に通じるような曲はできていなかったという。合格してからデビューまでの2年の間に沢山曲を作り、高野寛らしい音楽が完成した。 爽やかなのだが、どこかひねくれたポップな曲である。


ちなみに、高橋幸宏が高野寛を評価した理由は、高野のギャップにあった。好青年的な見た目と、出てくる音楽。「歌のお兄さんのような写真の青年がひねくれた音楽を演ってたら面白いよね」と言って聞いたらまさにそのような感じの音楽で、「そこがはまった」という。 

高野は高校生時代から宅録を行っていた。デビュー前の楽曲制作からシーケンサーやシンセサイザー、リズムマシンを使い、ギター以外のパートを作っていたという。デビュー後も、今でいうDTMをいち早く取り入れ、楽曲制作に活用している。そのような背景が原因してか、「ネタ」ありきの音楽が作れなかったという。「オリジナリティ」に執着する気持ちがあったようだ。高野寛はよく渋谷系音楽にカテゴリーされるが、渋谷系音楽は過去の洋楽等からの「元ネタ」が多く存在する。その点を考えると、  高野寛を渋谷系音楽にカテゴリーするのには少々違和感がある。


「See You Again」は先行シングル曲。デビューシングル。この曲から高野寛の音楽はスタートした。イントロから非常に爽やかさ溢れるメロディー。ジャンルで言うとネオアコにあたる。ポップではあるが、一筋縄ではいかないひねくれたイメージは高野寛らしい。特にひねくれているのは、デビュー曲を「See You Again」というタイトルの失恋バラードにしたこと。

余談だが、桜井和寿はこの曲の影響を受けたという。この曲にインスパイアされたのがミスチルのデビュー曲「君がいた夏」だとか。曲自体が似ているかどうかは別として、失恋ものバラードで円満なイメージの別れ方なのは一致している。
ちなみに、桜井和寿に小林武史を紹介したのは高野だという。ビートニクスのサポートミュージシャンとして小林と高野が参加し、演奏とコーラスをしていたが、それを聴いた桜井が「良いプロデューサーだと思ったので、今度お願いしたいと思います」と話したという。そして、高野が小林を紹介し、小林はMr.Childrenのプロデュースを務めるようになった。以上、豆知識。



「二人のくぼみ」は弾むようなポップなメロディーが展開された曲。キーボード主体のサウンドだが、ところどころで聴こえるギターのカッティングが勢いに溢れている。カップルの感情の機微を繊細に描いた歌詞。「こんな心の震えがあっただろうか 君の心の痛みは僕が抱きしめる」という歌詞が印象的。



「恋愛感情保存の法則」は不思議なタイトルがインパクト抜群の曲。普通のアーティストだったら仮タイトルレベルだと思う。この曲も非常にポップ。「一年前に恋人になり 半年前に友達になって 音沙汰のない彼女」からぽつんと来た電話に感情が揺れ動く男が描かれている。サビでは「でも何でもないさ 今のこの気持ち もう知らないよ でもこの気持ち」と見事に強がっている。その辺りの感情の揺れがコミカルに描写されているのが素晴らしい。



「宝島まで」は冒険しているようなイメージになる曲。それは完全にタイトルのせいなのたが。何故かは分からないが、何かが始まる予感がしてくる曲なのである。歌詞の中には「宝島」というフレーズは一切出てこない。打ち込みによるドラムやストリングスが前面に出たサウンド。どこがサビなのか分かりにくい展開が印象的。



「Outsomnia」は「See You Again」のC/W曲。イントロ無しで、いきなりボーカルが始まる。情景描写をメインにした、不思議なイメージの歌詞。というかタイトルから非常に謎めいている。「insomnia」(インソムニア)は「不眠症」を意味するが、「Outsomnia」というとその逆ということになるのだろう。考えれば考えるほどよく分からなくなる。



「国境の旅人」はベストにも収録された曲。今作発売後に「BLUE PERIOD」(次作「RING」収録)のC/W曲としてシングルカットされた。爽やかな雰囲気溢れる曲。高野寛には旅を描いた曲が多いが、この曲がその始まりと言える。国境に住んでいる人が主人公。異国情緒漂う歌詞。青色の表現に「ペルシアンブルー」「ヴィリディアンブルー」「プラシアンブルー」とバラエティー豊かなワードが使われている。聞いたことのないフレーズがある…。繰り返し歌われる「ここはどこだろう」というフレーズが印象的。



「September Dream」は高野寛のキャリアを通しても珍しい、全編英語詞による曲。作詞は生田朗が担当した。恐らく高橋幸宏との繋がりがあったのだろう。生田さんはYMOの作品のマネージメント、コーディネーターを務めていたからである。英語詞ではあるが、違和感無く聴ける。高野が紡ぎ出すメロディーとの親和性が非常に高いからだと思う。



「Play Back」は思い出を取り戻そうとする男を描いた曲。「フィルム」「写真」と後に写真家としても活動する高野を予想したようなフレーズが登場する。サウンドは今作の中では比較的ロック色が強い。「失くしかけてた写真を撮り直すよ まるで初めての時のように」というサビの歌詞が印象的。



「夜の海を走って月を見た」は幻想的な雰囲気漂う曲。ベスト盤にも収録されているので、初期の代表曲と言っても良いだろう。矢野顕子がカバーしたことがある曲。「ラララ…」というコーラスがメインになっている。都会の夜の海をイメージさせる歌詞。「土の中の動物達や 弱い人達や 血を流す工場さえも 深い眠りにつく」という歌詞が好き。「血を流す工場」という表現が凄い。



「世界は悲しすぎる」は比較的シンプルなサウンドが展開された曲。ところどころでサックスが使われ、ゆったりしたイメージを演出している。高野曰く、「独り言以上、メッセージ未満の"問題提起ソング"」。「問題提起ソング」は初期の高野のアルバムに見受けられる曲。「孤独はもう悲しすぎるから」「戦いはもう悲しすぎるから」というフレーズは力強さに満ちている。かなりメッセージ性があると思うのだが… 



「大陸の子」はアルバムのラストを飾るインスト曲。高野のスキャットが入っているので、完全なインストという訳でもない。サウンドは壮大なイメージ。広い広い草原から大地を見渡しているような感じ。



ヒット作ではないが、中古屋ではそこそこ見かける。1stアルバムということもあり、高野寛の音楽の魅力が出し切れていない印象がある。プロデュースが高橋幸宏だということもあるかもしれない。今聴くと少し古臭く聴こえてしまう曲もある。1stアルバムだから仕方ないと言われればそれまでだが。しかし、「See You Again」「国境の旅人」「夜の海を走って月を見た」とベスト盤にも収録された曲が収録されている。それらをベスト盤で聴いて気に入った方は聴いてみると良いかもしれない。


★★★★☆