山下達郎
2002-02-14

【収録曲】
全曲作詞 吉田美奈子
5.8.作詞 山下達郎
全曲作曲編曲 山下達郎
プロデュース 山下達郎

1.LOVE SPACE ★★★★★
2.翼に乗せて ★★★★☆
3.素敵な午後は ★★★★☆
4.CANDY ★★★★☆
5.DANCER ★★★★★
6.アンブレラ ★★★★★
7.言えなかった言葉を ★★★★☆
8.朝の様な夕暮れ ★★★★☆
9.きぬずれ ★★★★☆
10.SOLID SLIDER ★★★★★
↓2002年盤のみ収録のボーナストラック
11.LOVE SPACE(カラオケ)
12.アンブレラ(別ヴァージョン)
13.SOLID SLIDER(ショート・ヴァージョン)  ★★★★★

1977年6月25日発売(LP、オリジナル盤)
1984年8月5日初CD化
1986.1987.1990.1997年.1999年にCD再発
2002年2月14日発売(現行盤CD)
RCA/RVC
RCA/BMGファンハウス(2002年盤)
最高位59位(オリジナル盤) 売上 0.6万枚
最高位29位(2002年盤) 売上 1.3万枚

山下達郎の2ndアルバム。先行シングルは無し。1stシングルは当時まだリリースしておらず、3枚目のアルバムを出した翌1978年に初めてリリースした。売上は1stアルバムよりも下降し、山下達郎自身最低のセールスを記録したアルバムとなってしまった。前作からは半年程度の間隔でリリースされた。

ソロになってからの1stアルバム「CIRCUS TOWN」のレコーディング終了後、アレンジャーとして関わったチャーリー・カレロは山下に全てのスコアを持ち帰ることを許してくれたという。普通はそのようなことはノウハウを明かすことになり、避けられることだという。
「いまだにこれを上回る教材には出会えない」と後年山下が語る程そのスコアには影響を受けたようで、今作のレコーディング開始時にはそのスコアを実戦に応用しようとスコア書きに没頭したという。

当時の山下達郎はマネージャーと喧嘩別れしたり、音楽評論家と喧嘩したりと悪い状況が続いていたが、音楽に関しての好奇心は旺盛そのもので、限られた予算の中で様々な挑戦をしている。

そのためか、今作は地味ながらも様々な試みがされたアルバムになっている。山下達郎の代名詞と言える「一人多重コーラス」は今作が初出。予算の都合上そうせざるを得なかったという。

参加したミュージシャンのメンツがかなり凄い。メインのリズムセクションが、ドラムに村上"ポンタ"秀一、ベースには細野晴臣、ギターに松木恒秀、キーボードに佐藤博という当時の国内トップクラスのメンバー。
もう一つのリズムセクションはドラムに上原裕、ベースに田中章弘、キーボードに坂本龍一、ギターは山下本人というもの。


「LOVE SPACE」は今作のオープニング曲。今作の中で最初にレコーディングしたという。山下はライブで演奏しやすいので、16小説のテーマがひたすら繰り返されるという曲を作ってみたかったという。イントロの佐藤博のピアノのフレーズが印象的だが、これは佐藤が本番になって思いつきで弾いたという。村上"ポンタ"秀一のドラムが終始存在感抜群。バックの演奏は圧倒的な完成度。しかし、山下達郎のボーカルも負けてはいない。地声ギリギリの高音は後にも先にも聴けない。その声を聴くと何処までも広がっていくような感覚になる。勢いと繊細さに溢れた曲。


「翼に乗せて」は小品だが演奏が難しいという曲。当時山下達郎はCMの音楽をよく手がけていたが、その時と同じメンバーでレコーディングしているという。坂本龍一によるピアノが前面に出ており、とても心地良いサウンド。間奏のフリューゲルホルンのソロが印象的。ラストの「翼に乗せて」というフレーズの山下の高音が凄い。どこから出してるんだよと言いたくなる程である。


「素敵な午後は」はジーン・チャンドラのようなシカゴソウルに影響を受けて作られた曲。少し気だるい日曜の午後をイメージさせる、優しい歌詞が良い。村上、細野、松木、佐藤のリズムセクションで演奏されている。細かなことまで書いた「書き譜」を用意したが、彼らは殆ど言うことを聞いてくれなかったという。勝手にフレーズをどんどん変えられてしまったようだ。それでも素晴らしい演奏になっているのは、彼らが優れた演奏能力と、アレンジャーとしての実力を持っていたということだろう。山下達郎は、真に優秀なミュージシャンならそれ程規制しない方が良いということを学んだという。


「CANDY」はコード進行への興味のために作ったという曲。休憩時間に細野晴臣がサビのコードをピアノで弾いて確認していたのが妙に嬉しかったとのこと。よく分からないが、珍しいコードが使われているという。ジャズのような演奏がとても耳に優しい。「CANDY」は昔の恋人のあだ名なのだろうか?歌詞を見ているとそう感じられる。オルゴールが使われており、優しい曲の雰囲気を演出している。


「DANCER」はレア・グルーヴとして海外でも愛好家の間で知られているという曲。作詞は山下達郎自らによるもの。歌詞は北朝鮮に帰って行ったブラスバンド部の先輩を思って書いたという。そのため、独白的な感じがある。暗くどんよりした曲調ではあるが、グルーヴ感が凄い。村上秀一の16ビートのドラムが曲を終始引っ張る。それにエレピの浮遊感あるサウンドやストリングスがついてくる。なんとも言えない閉塞感と格好良さを感じさせるサウンド。山下達郎のディレイがかかった叫びのような声が印象的。レコードではここまでがA面。


「アンブレラ」は内省的な雰囲気漂う曲。スタジオで歌い出しの部分を弾いていたら吉田美奈子が「アンブレラ」と合わせて歌ってできたという。山下本人も好きな曲。一度ステージでやってみたいと思って何度もトライしたがダメだったという。雨のようにしっとりとした曲。タイトル通り雨の日になると聴きたくなる。サビの疾走感に満ちたメロディーが好き。


「言えなかった言葉を」はニューヨーク・シャッフルと呼ばれるスイング・ビート系の曲。山下達郎は若いころ、スイング・ビートで何曲も作ったというが、その中でも内省的な曲だという。山下自身によるピアノの弾き語りにコーラスとブラスという変わった編成で演奏されている。吉田美奈子による、情景描写がふんだんに用いられた歌詞が素晴らしい。最後の「もしも僕が」と繰り返される部分が印象的。


「朝の様な夕暮れ」は今作では数少ない山下自身の作詞による曲。1976年の春、電車のストで大瀧詠一の自宅スタジオに一週間ほど寝泊まりしていた時に、スタジオにあった16トラックレコーダーで自分の声を重ねてみたのが山下達郎の奥義、一人アカペラのそもそもの始まりだという。その時の譜面をそのまま使っている。一人アカペラが用いられた最初の曲。徹夜明けで夕方に目が覚めたとき、朝か夕暮れかと時間感覚を失った時に作ったモチーフ。曲自体はとても短く、アルバムの流れの調整のような感じだが、山下達郎の歴史を語る上では欠かせない曲だろう。


「きぬずれ」はピアノ弾き語りの世界を膨らませたものだという曲。山下は作った当初は意識していたわけではなかったというが、ビーチボーイズの「スマイリー・スマイル」の空気に近いものがあると語っている。アコーディオンの音がインパクト抜群。「雨粒 いつか絹の肌に似て 窓から流れる 星の様」というフレーズが印象的。


「SOLID SLIDER」は今作のラストを飾る曲。AORの線を狙ったとのこと。当時の山下は短時間で演奏をまとめやすい曲作りを心がけていたという。AORというよりファンクに聴こえる。ファンキーなグルーヴが作り出されている。山下達郎特有の、歌詞よりもサウンドを聴かせる曲。かなり聴きごたえのある演奏なので、引き込まれる。こちらは7分程ある。1982年のベスト盤のために、3分半程に短くしたバージョンがある。現在はそちらの方が主流。

ボーナストラックの評価は省略させていただく。


その後の作品に見られるようなポップさや派手さはあまり見られず、むしろ実験的、内省的な作風が特徴的な地味なアルバムである。しかし、その地味さこそが今作の最大の魅力であり、他の作品と異なるところ。そして、山下達郎の若さを感じさせる作品でもある。「LOVE SPACE」「翼に乗せて」で見られる地声ギリギリの超ハイトーンな歌唱はこの頃にしか聴けない。
この作品の地味さは、何度聴いても飽きない、いつ聴いても違和感が無いというエバーグリーンな魅力に通じている。無機質ながらもどこか引き込まれるジャケ写もその魅力を引き出している。長年の山下達郎のファンという方はこのアルバムが最高傑作だと主張することが多い。それは何となく頷ける。しかし、管理人は残念ながら今作の魅力がまだ完全には理解できていない。もう少し歳をとったら自然と分かるようになるかもしれないが… それまではゆっくりと聴き続けていきたい。

★★★★★