浜田省吾
1999-09-08


【収録曲】
プロデュース 浜田省吾
DISC1
全曲作詞作曲 浜田省吾
1.編曲 浜田省吾、古村敏比古、板倉雅一
2.10.編曲 板倉雅一
3.編曲 町支寛二
4.5.7.8.編曲 江澤宏明
6.編曲 古村敏比古
9.編曲 板倉雅一、浜田省吾


1.A NEW STYLE WAR ★★★★★
2.BIG BOY BLUES ★★★★☆
3.AMERICA ★★★★★
4.想い出のファイヤー・ストーム ★★★★☆
5.悲しみの岸辺 ★★★★☆

6.勝利への道 ★★★★★
7.晩夏の鐘 ★★★☆☆

8.A RICH MAN'S GIRL ★★★★☆
9.LONELY-愛という約束事 ★★★★☆
10.もうひとつの土曜日 ★★★★★


DISC2
全曲作詞作曲 浜田省吾
1.4.編曲 町支寛二
2.8.編曲 板倉雅一
3.編曲 浜田省吾、古村敏比古
5.編曲 町支寛二、高橋伸之
6.編曲 板倉雅一、古村敏比古
7.編曲 板倉雅一、江澤宏明


1.19のままさ ★★★★★
2.遠くへ-1973年・春・20才 ★★★★☆
3.路地裏の少年 ★★★★★
4.八月の歌 ★★★★☆
5.こんな夜はI MISS YOU ★★★☆☆

6.SWEET LITTLE DARLIN' ★★★★★
7.J.BOY ★★★★★

8.滑走路-夕景 省略


1986年9月4日発売(CD、LP、CT)
1990年6月21日再発(CD)
1999年9月8日リマスター再発(初回盤)
1999年9月29日リマスター再発(通常盤)
CBSソニー
クリアウォーター(1999年盤)
最高位1位 売上46.9万枚(オリジナル盤、合算)
最高位18位 売上2.9万枚(1999年盤)


浜田省吾の10thアルバム。先行シングル「LONELY-愛という約束事」「BIG BOY BLUES」「路地裏の少年」を収録。前作からはミニアルバムを挟んで約2年振りのリリースとなった。


2枚組、全18曲というかなりの大作アルバム。この作品で浜田省吾はオリコンのアルバムチャートで初めて1位を獲得。4週連続で1位という離れ業を演じた。


トラックダウンはアメリカで行われた。トラックダウン終了後はソニーのディレクターの須藤晃、尾崎豊、ECHOESの辻仁成らと共に食事に出かけたという。出来上がったばかりのテープを聴いた尾崎豊は「僕のことを歌っているみたいだ」と話した。浜田は「そうだよ。君のことを歌っているんだよ」と返したというエピソードがある。


「J.BOY」は浜田省吾自身の造語。「Japanese Boy」の略だという。後年浜田は「今作を発表してから世の中がやたらJとつけるようになったね。」と語っている。本人が例えに出していたのはJR、J-WAVE、Jリーグ。


再発が何度かされているが、1999年盤はリマスター、リアレンジ、リミックスがされたものになっている。ちなみに、2016年11月9日には今作発売30周年記念の「"J.BOY" 30th Anniversary Box」と「"J.BOY" 30th Anniversary Edition」が発売予定。


「A NEW STYLE WAR」は大作の始まりを告げる爽快なロックナンバー。社会派としての浜田省吾の象徴のような曲。タイトル通り戦争を描いたものだが、現代が抱える多くの国際的な問題が語られている。「国家に養われたテロリスト」「飽食の北を支えてる 飢えた南の痩せた土地」「貧困は差別へと 怒りは暴力へと」「ひび割れた原子力(NUCLEAR POWER)」…このような内容の曲を1986年というバブル直前~発生直後の時期に発表した浜田は凄い。そして、サビの「受け止めるか 立ち向かうか どこへも逃げ出す場所は無い」というフレーズは今聴いてもなお突き刺さる。



「BIG BOY BLUES」は先行シングル曲。この曲も社会風刺がされた曲になっている。聴いただけではとてもシングル曲とは思えない。曲自体はかなりポップなもの。経済成長をして「BIG BOY」になった日本を皮肉ったもの。歌詞の中に登場する「彼女」というフレーズはアジア諸国を表しているという。それを知った上で聴くと確かに日本を皮肉ったように聴こえる。



「AMERICA」は2000年リリースのベスト盤にも収録された曲。カントリーテイストの曲。1960年代くらいのアメリカの情景が浮かんでくるような、どこか懐かしい雰囲気がある。「映画の中のアメリカン・ドリーム」に憧れてアメリカを訪れた若者が描かれている。しかし、アメリカに行った理由は「ただ東京から逃れたかった」から。そして、若者は帰る故郷を見失ってしまった。寂しい感じの曲だが、サウンド含めてかなり好き。
私事だが、管理人が浜田省吾の音楽に触れたきっかけが父の車の中で流れていた「The History of Shogo Hamada "Since1975"」というベスト盤(前述の2000年リリースのベスト盤)だったので、かなり思い入れがある。



 「想い出のファイヤー・ストーム」は青春時代を描いたポップな曲。大学生のカップルが卒業後に結婚した。しかし、様々なすれ違いが重なり、別れてしまった。曲調は明るいのに、内容はかなり悲しいものである。「答など無いのさ 悲しむこともない すべては 移ろい消えてく」というフレーズが印象的。色々と達観してしまったような言葉である。



「悲しみの岸辺」はバラードベストにも収録された曲。そちらはリアレンジされている。タイトル通り悲しみが漂う曲なのだが、情感はあまり込められていない感じ。浜田のボーカルも淡々としており、曲もそれにつられるように淡々と進む。男の恋の終わりが描かれた歌詞。「大切なもの」をいつも置き去りにしてしまう。そのようなことは誰にもあるかもしれない。聴いていると、まるで自分のことを歌われているような気分になる。



「勝利への道」は爽快感溢れるロックナンバー。イントロを聴くだけでテンションが上がる。「勝利」とは何か。人によって色々と解釈があるかもしれない。管理人は「自分が思い描いた未来を叶えること」「もし叶えられなかったとしても、幸せだと思える生き方」だと思っている。最後には「勝利への道を おれと走ってくれ」と言って終わる。支えてくれる人は必要である。「勝利への道」を、自分なりに進んでいきたいと思う。



「晩夏の鐘」はインスト曲。歌詞カードに「両親に捧げる」という旨の英文が書かれている。タイトル通り、夏の終わりの物悲しい雰囲気が伝わってくるようなしっとりとした曲。サックスとキーボードの音色がその雰囲気を演出している。1986年リリースのシングル「路地裏の少年」のC/W曲として歌入りのこの曲が収録されている。ちなみに、特に表記はされていないが、今作の1999年盤のDISC2の「滑走路-夕景」の後にシークレットトラックとして歌入りバージョンが収録されている。



「A RICH MAN'S GIRL」は浜田省吾の王道と言える、シャイな男の片想いが歌われた曲。「教室じゃ天使 キャンパスじゃ天使」という片想い相手の女の子だが、口癖は「愛などあてにならない」であり、お金のある男しか好きにならないという何ともアレな女の子。男はそんな女の子を遠くから見ているだけ。その距離感が良い。歌詞は英語と日本語がごちゃ混ぜになっているイメージ。



「LONELY-愛という約束事」は先行シングル曲。バラードベストにも収録され、何種類かの別バージョンがある。重厚感あるサウンド。「愛という約束事」に振り回される男女を歌っている。男女の繋がりは身体だけなのだろうか?「心からの繋がり」は存在するのか?考えさせられる曲である。



「もうひとつの土曜日」は「LONELY-愛という約束事」のC/W曲。ファンではない方からもある程度の知名度がある、浜田省吾のバラードの代表作と言ってもいい曲。様々なアーティストにもカバーされている。著名な曲ではあるが、歌詞の意味はあまり分からない。恐らく主人公の男の好きな女性は相手がいるのだろう。つまりは女性から見れば主人公は不倫相手。そして、男はその女性と結婚しようとしていると解釈している。割と重い内容の曲だが、管理人がこの曲を初めて耳にした小学4年ぐらいの頃から何故か大好きな曲だった。


DISC2
全曲作詞作曲 浜田省吾
1.4.編曲 町支寛二
2.8.編曲 板倉雅一
3.編曲 浜田省吾、古村敏比古
5.編曲 町支寛二、高橋伸之
6.編曲 板倉雅一、古村敏比古
7.編曲 板倉雅一、江澤宏明

1.19のままさ ★★★★★
2.遠くへ-1973年・春・20才 ★★★★☆
3.路地裏の少年 ★★★★★
4.八月の歌 ★★★★☆
5.こんな夜はI MISS YOU ★★★☆☆
6.SWEET LITTLE DARLIN' ★★★★★
7.J.BOY ★★★★★
8.滑走路-夕景 省略


「19のままさ」は青春時代を回想したポップな曲。予備校で出会った「あの娘」との恋の始まり、終わりを歌った曲。思わず恥ずかしくなってしまう程ピュアな歌詞。「いつまでも忘れない 今でも目をこうして閉じれば19のままさ」というサビの歌詞が顕著。思い出はいつまでも美しいままなのだろう。思い出は振り返りつつも、しっかりとこれからに向かって生きていきたいものである。


「遠くへ-1973年・春・20才」はその頃の浜田自身を描いたような曲。「あの娘」との出会いや大学生活が歌われている。青年はただ「遠くへ」と願っている。何故「遠くへ」行きたいと願うのか?理由は無くても行ってみたいのである。何かが変わる予感がするから。青年には共感できるところもある。


「路地裏の少年」は浜田省吾のデビューシングルのリアレンジバージョン。元々のバージョンはアコギが主体になったフォーク系の曲だが、こちらはバンドサウンドが主体になっている。(特にキーボード)曲もかなり長くなった。ちなみに、今作収録の「19のままさ」「遠くへ-1973年・春・20才」「路地裏の少年」はストーリーが繋がっているという。浜田省吾自身を投影し、少年の成長を追ったものになっている。こちらのバージョンも当然良いのだが、やはり原バージョンのフォーク色の強い方が好き。メッセージ性の強さが違う。


「八月の歌」は疾走感溢れるロックンロールナンバー。歌詞は重い内容になっている。現代の様子を描きつつ、被爆国としての日本の姿を描いた歌詞。「八月になるたびに"広島-ヒロシマ"の名のもとに 平和を唱えるこの国 アジアに何を償ってきた」という歌詞が印象的。日本は戦争の被害者であり、加害者である。そのことを改めて実感させられる曲。


「こんな夜はI MISS YOU」は2分と少しの短い曲。アカペラによる曲。浜田省吾自身のツアーの終了後をイメージさせる歌詞。明るい雰囲気ながらも、寂しくなるような曲。


「SWEET LITTLE DARLIN'」は「BIG BOY BLUES」のC/W曲。しっとりとした曲調のバラード。バラードベストにも収録され、そちらはリアレンジされている。そのバージョンもかなり良い。恋人への愛を歌った曲とも、親が子供への愛を歌った曲とも解釈できる。どちらでも素晴らしい曲になる。とても深い愛が歌われている。もう少し評価されても良いと思う曲。


「J.BOY」は今作のタイトル曲。イントロからとてつもない高揚感に溢れており、かなりテンションが上がる。管理人の中ではCHAGE and ASKAの「YAH YAH YAH」と同じくらいテンションが上がるイントロ。頑張る心と戦う気力を一気に注がれるような感じ。比較的知名度の高い曲で、浜田省吾の代表作と言ってもいい曲だが、意外にもシングル化はされていない。ライブでも必ず歌われる定番中の定番。前述したが、タイトルは「Japanese Boy」の略。「成長しない日本」という意味も込められているという。バブルに浮かれる当時の日本社会を批判した曲。 「頼りなく豊かな国」というフレーズは日本の姿をこれ以上無い程上手く捉えた言葉だと思う。
「打ち砕け 日常ってやつを」「乗り越えろ もう悲しみってやつを」「受け止めろ 孤独ってやつを」「吹き飛ばせ その空虚(むなしさ)ってやつを」というラストの歌詞にはいつも勇気を貰っている。社会を批判した曲であり、(国や個人への)応援歌でもあるという凄い曲。


「滑走路-夕景」は大作のラストを飾るインスト曲。元々は井上鑑に提供した曲だという。そのため、実質的なセルフカバー。インストだが曲中には浜田の語りが入っている。夕暮れの光景が浮かんでくるような曲。「J.BOY」で極限まで盛り上がった後はこの曲でぐっと落ち着かせる。中華料理を沢山食べた後の杏仁豆腐みたいな感じ。しっかりとアルバムを締めている。


ヒット作なので、値段は少し高いが中古屋ではよく見かける。浜田省吾の出世作と言えるアルバム。ベストに収録された曲も多く、「もうひとつの土曜日」「J.BOY」と言った著名な曲も収録されている。ライトリスナーにも比較的聴きやすいと思われる。2枚組と言うとついつい聴きづらい大作をイメージしがちだが、DISC1、2共に40分台で合計90分少々とそこまで重量級ではない。ロックな曲とポップな曲のバランスも良い。名盤だと思う。

★★★★★