【収録曲】
全曲作詞作曲 岸田繁
5.作曲 佐藤征史
8.作曲編曲 くるり/シュガーフィールズ
全曲編曲       くるり
プロデュース くるり&佐久間正英 

1.ランチ ★★★☆☆
2.虹 ★★★★★

3.オールドタイマー ★★★★★
4.さよならストレンジャー ★★★★☆

5.ハワイ・サーティーン 省略
6.東京(album version) ★★★★★
7.トランスファー ★★★★☆
8.葡萄園 省略
9.7月の夜 ★★★★☆
10.りんご飴 ★★★★☆
11.傘 ★★★☆☆
12.ブルース ★★★★☆


1999年4月21日発売
SPEEDSTAR RECORDS
最高位16位 売上1.9万枚


くるりの1stアルバム。先行シングル「東京」「虹」を収録。メジャーデビュー後初のアルバムである。プロデュースには佐久間正英が参加した。


今でこそアルバムごとに違った魅力を見せてくれるくるりだが、今作はその原点。フォークロック色の強いアルバムである。しかし、プログレ的な要素や、今後のくるりの作品に見られる実験的な要素を含んだ楽曲もある。歌を聴かせるイメージの曲が多い。


大学在学中にメジャーデビューしている。佐藤征史と森信行は1999年の3月に卒業できたものの、岸田繁は留年してしまった。2人は卒業し、岸田は在学中という状態で今作リリースとなった。曲は全て学生時代に作られたものだと思われる。



「ランチ」は今作のオープニング曲。2分少々の短い曲。とてもゆったりとした雰囲気がある。サウンドはアコースティックなイメージのシンプルなもの。幸せそうなカップルが描かれている。「いつでも愛ある明日を信じていたい」という歌詞が印象的。



「虹」は先行シングル曲。岸田曰く「くるりを象徴している曲」である。現在もよくライブで演奏される。散文的ではあるが、昔話のような口調で語られた歌詞が展開されている。重いロックサウンドでずっしりとした響きがある。アウトロでの歪んだギターが格好良い。ちなみに、この曲は阪神淡路大震災があったから作られた曲と言われている。この曲から感じ取れる何とも言えない重苦しさと虚無感はそのためなのだろうか?



「オールドタイマー」は疾走感溢れるロックナンバー。鉄道をモチーフにした歌詞だという。流石鉄道マニアの岸田繁である。最初期に作られたデモテープ「くるりの一回転」の頃には既にあった曲らしい。爽快感溢れるギターロックである。初期ならではの勢いがある。何度も繰り返し聴きたくなるような魅力がある。



「さよならストレンジャー」はタイトル曲。岸田曰く「自分の高校生時代を歌った曲」。フォーク色の強い、比較的シンプルなサウンドが心地良い。気だるい雰囲気がある。この曲も「虹」のような虚無感を感じさせる。しかし、そのような曲でもしっかりと聴かせる。「真っ暗な昼休み 気の抜けたサイダー流し込む」というフレーズが印象的。



「ハワイ・サーティーン」は佐藤征史作曲によるインスト曲。かなり実験色の強いサウンド。スプーンの音、ヴィブラフォン、紙を破るビリビリ音、スライドギター等が使われている。アルバムの流れを調整する役割があると思われる。


「東京(album version)」は先行シングル曲。くるりのメジャーデビューシングル。岸田は「初めて素直な気持ちが書けた」と語っている。インディーズ時代にリリースされたミニアルバムにも収録されているが、そのバージョンは全く違うものらしい。この曲が作られた当時、くるりはまだ東京には出ていなかった。「遠距離恋愛や片想いをしている相手に伝えたいこと」が歌詞になっている。一度聴いたら忘れられない、シンプルで力強いサウンド、若さ溢れるストレートな歌詞。 最高傑作と言うファンがいるのも頷ける名曲である。



「トランスファー」はここまでの流れを変えるようなポップな曲。サウンドは重厚感あるものだが、メロディーはポップ。一時ライブのアンコールでよく演奏されたというのも分かる気がする。一人、迷いながら歩いている様子が描かれている。暗いイメージの歌詞だが、最後には希望を感じさせるフレーズが出てくる。



「葡萄園」はインスト曲。シュガーフィールズが編曲に参加している。セッションを逆回転させて深いリバーブをかけたという。歪んだイメージのサウンド。実験性の強いインスト。



「7月の夜」は前の曲から繋がって始まる曲。シンプルなバンドサウンドが特徴的な、ポップな曲。「7月」を「なながつ」と読むのに驚いた。地域によって読み方が違うのだろうか?子猫を連れて散歩するという微笑ましい内容の歌詞。実話に基づいたものらしい。



「りんご飴」はフォーク色の濃い曲。アコギがメインになったサウンドや「です」「ます」の口調から、どことなくはっぴいえんどやサニーデイ・サービスを彷彿とさせる曲。物語を朗読しているような岸田の歌い方が印象に残る。「あの夏」を振り返った内容の曲。りんご飴は夏祭りをイメージさせるアイテムの一つだろう。とても懐かしい気分になれる曲。



「傘」はサイケな雰囲気を感じさせる曲。イントロから歌い出しまではとても静かだが、歌い出しが終わるとギターが現れる。しばらく歌うとまた静かになる。そしてまた賑やかになる。その繰り返し。サビ以外のドラムは打ち込みによるもの。このどこか狂ったような雰囲気は次作「図鑑」に通じている。



「ブルース」は今作のラストを飾る曲。ラストらしい壮大な印象の曲。フォークロック色の強い曲。「ストレンジャー」のフレーズも出てくるためか、今作のまとめのようなイメージがある。曲の最後の方では今作の1曲目「ランチ」の続きが流れてくる。続けてもう一周聴きたくなるような感覚になる。



ヒット作ではないが中古屋ではそこそこ見かける。1stアルバムというと拙い作品になりがちだが、このアルバムは全くそのようなことを感じさせない。若者ならではの複雑な感情が描かれた曲もあるが、曲自体の完成度は高い。「虹」「東京」のようなくるりの代表作と言える曲も収録されている。全編通してフォークロック的な曲が多めだが、聴きにくいと感じることは無い。ライトリスナーにも聴きやすいアルバムだと思う。

★★★★☆