KAN
2010-10-27


【収録曲】
全曲作詞作曲 KAN
5.作詞 松尾由紀夫
6.作詞 サエキけんぞう
全曲編曲 KAN、松本晃彦
10.編曲 松本晃彦
プロデュース 三浦隆、後藤敏文

1.適齢期LOVE STORY ★★★★☆
2.君はうるさい ★★★★★

3.いっちょまえに高級車 ★★★★☆
4.フランスについた日 ★★★☆☆

5.WAITING SO LONG ★★★☆☆
6.東京のお嬢さん ★★★★☆
7.だいじょうぶI'M ALL RIGHT ★★★★★
8.恋はTONIN' ★★★★☆
9.言えずのI LOVE YOU ★★★★★

10.GIRL TO LOVE ★★★★★


1988年6月25日発売(LP,CT,CD)
2010年10月27日再発(CDリマスター)
ポリドール(オリジナル盤)
アップフロントワークス(2010年盤)
最高位86位 売上2.0万枚

KANの3rdアルバム。シングル「だいじょうぶI'M ALL RIGHT」が今作と同時発売された。今作発売から実に約4年後、「言えずのI LOVE YOU」がシングルカットされた。KANにとっては初となるオリコンチャート入りを果たした。

今まで外部に作詞を依頼することが多かったKANだが、今作では全曲作詞を目指して制作したという。結局その目標を達成することはできなかった。しかし、10曲中8曲でKAN自ら作詞を手がけた。

前作では一部参加していた松本晃彦が全曲の編曲に関わっている。


比較的インパクトの強いジャケ写が印象的。KAN曰く「男性が買いにくい」とのこと。「ジャケ写が唯一の欠点」という旨の発言もしている。ジャケ写だが、いかにもバブル時代と言ったイメージがある。時代性を感じさせる。



「適齢期LOVE STORY」は今作のオープニング曲。デビュー前には既に完成していた曲だという。ライブでも盛り上げ曲としてよく演奏される。疾走感のあるメロディーに乗せて、結婚を前にした男を阻む壁を歌っている。サウンドは打ち込みによるもの。サウンド面は古臭い印象が否めない。「歴史、形式、親戚、経済状況 恋のじゃまものが多すぎる」というフレーズが印象的。「適齢期」のフレーズは「てきれき」と発音されている。相手の親を説得しようと頑張っている姿が浮かんでくるようである。


「君はうるさい」は初期のベスト盤にも収録された人気曲。「KANを象徴する曲」とKAN自ら語る程の自信作。ポップかつ流麗なメロディー、弱い男を描いたコミカルな歌詞、曲の展開…まさに王道と言った感じである。Aメロでは彼女の視点(口調)で主人公の男への文句が語られ、次に男の反省が語られる。最終的には男の不満が爆発して彼女に怒るのだが、彼女が泣いているのを見て逆に謝るといういい人っぷりを発揮する。このストーリー展開もKANならでは。ストーリーの変化と共に曲調や歌い方も変わるのが特徴的。初期のKANを代表する名曲だと思う。



「いっちょまえに高級車」はKANらしいコミカルな歌詞が展開された曲。ピアノを中心にしたポップなメロディー。経済的な格差のある恋をしている男が描かれている。彼女の方が裕福に育ったようだ。そんな彼女に振り回される男。「いっちょまえに高級車」「いっちょまえに高級レストラン」「いっちょまえに高級ブランド」と畳み掛けるフレーズが印象的。一番好きなのは「人間性は高級ブランド」というフレーズ。いつかはそうなりたいものである。



「フランスについた日」は「だいじょうぶI'M ALL RIGHT」のC/W曲。ここまでの流れを落ち着けるようなバラード。とてもシンプルなサウンド。「まゆみ」のC/W曲はこの曲のリアレンジバージョンである。普通に聴くと恋人へのメッセージのような歌詞なのだが、レコード会社を移籍したいという想いを込めたものだとされている。その理由は分からないが、何かしらの不満があったのかもしれない。「遠くはなれてみたい よく考えてみたい 君の進路と僕の夢 おちついて」という歌詞はKANの想いが込められているように思える。



「WAITING SO LONG」は今作では数少ない、外部が作詞を担当した曲。松尾由紀夫は前作でも作詞を担当している。今作の中では少し浮いた印象がある。KAN自身もこの曲をあまり重要視していないようだ。サウンド面は結構凝ったものになっている。ロック色の強いサウンド。再生時間は今作最長の6分21秒。歌詞について特に語ることは無い。



「東京のお嬢さん」は今作では数少ない、外部が作詞を担当した曲。サエキけんぞうが作詞を担当した。サビはKAN本人が作詞したという。この曲も比較的ロック色の強いサウンドになっている。KANの楽曲にしては珍しくコーラスワークが凝っている。英語詞と日本語詞がごちゃごちゃになっている印象の歌詞。


「だいじょうぶI'M ALL RIGHT」はシングル曲。シングルは今作と同日に発売された。ポリドール時代のベスト盤に収録されている。ビリー・ジョエルからの影響を色濃く感じさせるピアノロック的な曲。英語詞の部分の歌い方もビリー・ジョエルを彷彿とさせる。フラれてしまったので、相手に振り向いてもらうためにもっと魅力をつけて出直すと決心する内容。「ぼくの本当の恋は ふられてからはじまる」というフレーズが印象的。男のポジティブ振りに驚かされる。この曲も初期のKANを代表する曲だと思う。



「恋はTONIN'」は言葉遊びがされたタイトルが特徴的なポップな曲。「TONIN'」は「当人」を意味する。サビには「当人同士」というフレーズが使われている。跳ね上がるような曲調に言葉が詰め込まれている。サウンドはとても楽しげなイメージのもの。恋愛相談される男を描いたコミカルな歌詞。相談してきた相手に片想いしている男。「I wanna be your TONIN'」というラストのフレーズが印象的。



「言えずのI LOVE YOU」は1992年にシングルカットされた曲。そこそこ知名度があるようだ。この曲もデビュー前に完成していた曲だという。何ともピュアな男の感情が綴られた歌詞だが、そのためかシングルカットされてからはライブで殆ど演奏されなくなった。「歌詞の内容と今の自分との間にギャップを感じる」という理由。ポップかつ流麗なメロディーにシンプルなサウンドがとても心地良い。友達以上恋人未満の関係の相手のようだ。「夜もねむれない 昼もたべてない 君のことばかり いつも頭に満載さ はかどらないまま」「この想いを今日こそ 打ち明けるつもりで来たけど まじめな顔も似合わない タイミングがつかめない」と片想いならではの感情を歌い上げ、サビでは「あのね うんとね」と言葉に詰まりまくる。これらの歌詞はKANにしか作れない世界観だろう。この曲も初期のKANを代表する曲だと思う。
ちなみに、桜井和寿はこの曲の影響を受けて「Over」を作った。この曲と「Over」を聴き比べていただくと分かるが、サビのメロディーがそっくりである。



「GIRL TO LOVE」は今作のラストを飾るタイトル曲。編曲は松本晃彦が単独で行った。KANの王道とも言える、ピアノを中心にしたバラード。ラストに相応しい壮大さがある。明るく駆け抜けるような今作は叙情的な曲で締められる。彼女に語りかけるような歌詞が印象的。歌い出しの「今日の勇気は 君の声」というフレーズが印象的。


中古屋ではたまに見かける。全編通してKANらしさを感じさせるポップな曲が多い。作詞も自ら手がけたものが殆どなのでKANの楽曲の世界観は今作からでき始めたと言っても過言ではない。初期を代表するような名曲も収録されており、KANを深く聴いていくなら必須の作品。「愛は勝つ」でブレイクするまでの4作のアルバムの中では今作が一番完成度が高い作品だと思う。いわゆる「初期の名盤」。

★★★★☆