大江千里
1994-02-28


【収録曲】
全曲作詞作曲 大江千里
1.4.5.7.8.9.編曲 清水信之
2.3.6.10.編曲 佐橋佳幸
プロデュース 大江千里


1.今日のきみに贈る歌 ★★★★★
2.RADIO ★★★★☆
3.雪の別れ(Giant Steps Version) ★★★★☆
4.ある雨の朝 ★★★☆☆
5.I LOVE YOU ★★★★★

6.さんざん降ってた、さんざん泣いてた ★★★★☆
7.罪と罰 ★★★★★
8.出来もしない約束 ★★★☆☆
9.きみを求め続けるかぎり ★★★★☆
10.maybe tomorrow(Giant Steps Version) ★★★★★


1994年2月28日発売
Epic/Sony Records
最高位5位 売上7.4万枚


大江千里の12thアルバム。先行シングル「雪の別れ」「きみを求め続けるかぎり」を収録。「雪の別れ」はアルバムバージョンでの収録。前作「六甲おろしふいた」以来1年2カ月振りのリリースとなった。


大江千里は1983年のデビュー以来、毎年オリジナルアルバムをリリースしてきた。しかし、1993年はアルバムリリースが無かった。シングルのリリースのみだった。1993年には「軍配はどっちに上がる」というシングルをリリースしていたが、そちらは未収録。


今作は大江がニューヨークに長期滞在し、ニューヨークでレコーディングしたという。発売前から自身のラジオでレコーディングの様子や現地での生活の様子を発信していたようだ。ちなみに、今作のマスタリングは名匠として知られ、日本でも多くの作品を手がけているテッド・ジェンセンが担当した。


今作のタイトルはジャズの名盤と名高いジョン・コルトレーンの「Giant Steps」に由来する。しかし、ジャケ写の色合いは同じくジョン・コルトレーンの名盤「Blue Train」を思わせる感じになっている。大江千里はジョン・コルトレーンの影響を受けたようで、「コルトレーンのレコードは自分の血となり肉となった作品だった」と語っている。現在大江千里はジャズピアニストとして活躍しているが、その原点と言えるような作品である。



「今日のきみに贈る歌」は今作のオープニング曲。聴いていると気持ちが晴れるような優しくポップな曲。歌詞も優しい雰囲気に溢れている。「クラプトン」「アンプ」「ピック」等ギターを思わせるフレーズが多く登場するのが特徴的。「まんざらでもない一日の 最後の一秒をきみと終われたら」というサビの歌詞が好き。その通り、一日の終わりになると聴きたくなる。明日からまた頑張ろうと思えるような曲である。


「RADIO」は激しいギターサウンドが特徴的なロックナンバー。編曲がギタリストの佐橋佳幸なのでそこは流石と言ったところ。大江千里の中では珍しいタイプの楽曲。非常に散文的で難解な歌詞が展開されている。固有名詞が多く使われている。「誕生日がジョンレノンに近い ジュリアロバーツと同じ店で 食事したことあるけど 自慢になるからだれにも喋らない 喋ると馬鹿にされると決まっているから」というサビの歌詞がよく分からない。ジョン・レノンの誕生日は10月9日。ジュリア・ロバーツの誕生日は10月28日。そして大江千里の誕生日は9月6日。そこまで近いようにも思えない。曲の中の主人公が二人と誕生日が近いと解釈している。メロディーに対して歌詞が詰め込まれた、 メロディーが追いつかないような大江千里ならではの詞世界が広がっている。そのためか中毒性が抜群。



「雪の別れ」は先行シングル曲。松竹100周年、日本テレビ開局40周年記念映画『学校』のキャンペーンソングに起用された。ちなみに、この映画にはちょい役ではあるが大江千里も出演している。今作はアルバムバージョンでの収録となった。タイトル通り失恋を描いたバラード。しかし曲調はアップテンポ。これぞ大江千里の王道。雪が降る駅で恋人が乗った電車を見送る男が描かれている。「自分を愛せずに人を愛せないこと さよならが初めて教えてくれた」というサビの歌詞が印象的。本当にその通りだと思う。



「ある雨の朝」はAOR色の強い曲。電話番号が歌詞の中で使われているのが特徴。「031605227」という数字。恐らくかけても何も起こらないと思う。これまた失恋ものバラード。「ある雨の朝 きみに逢ったよ 駅のホームできみに逢ったよ」という歌い出しから始まるが、結局それ以降逢うことはできなかった。しかし、番号は覚えていた。何とも切ない曲である。タイトル通り雨の日の気だるい雰囲気に合った曲。雨の日を過ごす友としてどうぞ。



「I LOVE YOU」はフュージョン的なサウンドが心地良い曲。しっとりと聴かせるバラードナンバー。歌詞は恋人のことを想う優しい男の心情を描いたもの。「愛しても 愛しても 愛し足りない事が 僕にはあると 初めて知ったよ」という歌い出しからグッとくる。「きみの夢が叶うように 僕が抱きしめていたいけれど 約束なんてしなくていい 少しでもきみと 一緒にいたい」という二番のサビ前の歌詞が好き。情感を込めずに淡々と歌う大江のボーカルが逆に感動させてくる。サウンドも淡々としている。今作の収録曲の中で管理人が最も好きな曲。大江千里の全ての楽曲の中でもかなり好きな部類に入ってくると思う。



「さんざん降ってた、さんざん泣いてた」は淡々と聴かせるバラードナンバー。この曲にはビンテージもののエレピ、ウーリッツァーが使われている。その音は曲の世界観に合っているように思えるが、この曲以降はあまり使われていないようだ。男女の感情の機微を描いた大江千里ならではの歌詞が展開されている。「友達なんて言葉でずっと ごまかし続けてるのはもっと きみをこのまま抱きしめながら 浅い夢を見たいだけ」という歌詞が印象的。



「罪と罰」はディスコ風の曲調が印象的な曲。サウンドはバンドサウンドとホーンセクションが上手く絡んでいる。サビになるとラップのような歌い方になるのがこの曲の特徴。大江千里の楽曲としてはかなり異色なイメージがあるが、意外と合っている。歌詞は恋人との喧嘩を描いたもの。この曲も中毒性抜群。聴くとラップ風ボーカルの部分がやたら脳内再生される。



「出来もしない約束」はブルーアイドソウルテイストの楽曲。舞台は恋人同士が思い出を共有した部屋。結局二人は別れてしまった。「苗字がかわっても逢いたいね」という「出来もしない約束」をした。ラストの「だけど そんなきみが好きです」というフレーズは何とも切ない。季節の描写がされており、この曲の切なさをさらに高めている。


「きみを求め続けるかぎり」は先行シングル曲。ピアノロック的なサウンドが展開されている。アルバムを通して聴くと、前の曲からこの曲への繋がりが素晴らしい。まるで歌詞の世界観も繋がっているかのように感じられる。サビでは堂々と「きみに逢わなきゃよかった きみを知らなきゃよかった きみは僕の人生を 激しくくるわせてしまった」と歌い上げている。大江千里の人気曲である「GLORY DAYS」のサビでは「きみと出逢えてよかった」と歌い上げているのだが… どうしたんだと言わざるを得ない。



「maybe tomorrow」は「きみを求め続けるかぎり」のC/W曲。アルバムバージョンでの収録。温かみに溢れた歌詞が展開されている。「明日が今日よりもいい日になるように」という願いが込められている。歌い出しから「生きていくのはつらいけど うまれたことを責めたりしないで」と言ってのける。「路肩のすみ 砂をはらい 缶コーヒーひとつで暖まろう」という歌詞が印象的。缶コーヒーという小道具を使っていることで、暖かみがイメージしやすい。この曲を聴くと缶コーヒーを飲みたくなってしまう。ラストにふさわしい大きな優しさを持った曲である。



ヒット作ではないが中古屋ではよく見かける。全体的にAORやソウル的なテイストの楽曲が多め。落ち着いたバラードが多い。アルバムとしての統一感、一曲単位の完成度共にとても高い。往年の大江千里の名盤「1234」を彷彿とさせる。管理人の好きな大江千里のアルバムの一つ。強いて難点を挙げるとすれば、大江のボーカルの衰え。ファンになると全く気にならないのだが、ライトリスナーだと結構気になると思われる。楽曲は素晴らしいものばかりである。全曲星5個でも良いくらい。


★★★★★